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恋蝶詩  作者: 楼榮 槐
7/13

7詩


桜の花びらが舞い落ちる度に池の中の月が揺らめく。桜はまだ七分咲きであるにも関わらずすばらしく美しい。その幻想的な世界に、あどけなさを残す少女が一人立っていた。彼女の名前は桜庭さくらば紅葉くれは。名門桜庭家の次女である。桜庭家は表では大商人としてその名を轟かせているが、裏では忍として歴史に名を刻んでいる者も多い。紅葉くれは自身は16歳ではあるものの、見た目は中学生くらいにしか見えない。

「今年は満開の桜を見れないのね」

寂しそうにそうつぶやくと、しゃがみこんで落ちたばかりの花びらを手に取った。

「お嬢様、こんなところにおられましたか!もうすぐ試験を控えておられるというのに、風邪でもひいたらどうします」

そう言って現れたのは桜庭家に長年仕える幸野こうの秋成あきなりである。

紅葉くれはは幸野の声が聞こえなかったふりをして桜の花びらとたわむれ続けている。それを見て幸野はため息をついた。

「お嬢様は少しぼんやりとされすぎております。私はお嬢様が試験に合格されるか心配でなりません」

「爺や、試験で何をするの?」

「それは昼にお話しましたでしょう。村で忍であることを隠したまま過ごすと。その生活中に幾つか任務がされるでしょう」

「闇のお金の動きを観察するとか?」

「さあ。私に分かるのはそれだけです」

「ほんとにそれだけ?」

一瞬空気が切りつけられたように鋭い口調で返す。

紅葉くれはは誰に似たのか勘が鋭い。それにも関わらず何も考えてないところもあるため、気づいたことをそのまま言ってしまうことが度々(たびたび)ある。幸野はそのせいでいつもはらはらさせられていた。紅葉くれはがもっと幼い頃、初めて会った両親の御得意様の浮気を当ててしまったときはその勘の良さを恨んだほどであった。

「私は一介の爺やでございます。お嬢様がお望みの答えとやらは分かりませぬ」

「爺や、本当は忍だったんでしょ?」

「それはいつもの勘ですか?」

「物腰でわかるよ」

長年桜庭家に仕えてきたが、そのことは紅葉くれはの両親以外誰にも知られてはいない。彼らでさえ自分から言わなければ気付かなかったのではないかと思われるほどまでに隠密にしているにも関わらず、紅葉くれはは気づいてしまった。

紅葉くれはは幸野の答えも聞かず話し続ける。答えなど聞かなくとも確信しているからだ。

「男忍と女忍では試験場所も違うんでしょ?男忍ってなにするの?お兄様はどこへ行ったの?お姉さまの名声は聞くけれどお兄様が婿養子になって忍をやめたなんて嘘でしょう?」

「お嬢様、深い詮索は命取りになりますよ。それに試験を終えた者は終えていない身内に会ってはいけない掟がありますゆえ、そんな御想像をなさるのも仕方のないことでしょう。ですがほらもう、こんな時間になりますしおやすみくださいませ」

「そんなこと言ったって眠くな...」

突然紅葉くれはに強い眠気が襲う。

「やっぱり寝る」

トコトコと小刻みに歩いて部屋に戻る紅葉くれはを見て、幸野は指に挟んだ針をそっとしまった。



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