6詩
「おい見ろよ」
周囲がざわめき始める。
「ああ。皇篠か」
学校の廊下を通るだけでこの有様である。学校といってももちろん普通の学校ではなく忍になるための学校で、最初の適性検査によって忍として足りないものを判定し、良に至らなかった者たちがその単位を得るために授業をとるという大学に近い形式だ。ただ良をとるのは毎年それぞれの科目で10%以下しかいない。それだけ難しい検査であるにも関わらず篠は半分以上に受かり、授業を免除されている。それだからこそ人より多くの任務をこなすことができる。
「アイツ明日から試験らしいぜ」
「七光りが。親の権力で試験免除とかにならないんですかー」
他人の煽りに対して篠は表情も変えず無視する。もうこの煽りにも罵声にも慣れた、まるでその姿は歩くためだけの傀儡のように心を見せない。
「おい聞けよ!凡才なやつには興味ないってか?調子乗ってんじゃねえぞ」
瞬間その少年の手からクナイが飛ぶ。それは通り過ぎた篠の背中に向かって突き刺さると思われたが篠はひらりとかわし、そのまま何事もなかったかのように歩き続ける。
「くっ舐めんな!」
もう一人も加勢し、二人がかりでクナイやら手裏剣やらを投げつける。篠はというと、後ろ向きであるにも関わらず全てを避け、最後の一つを指先で捕らえた。
「や、やる気かよ」
篠に投げつけた少年が後退りする。
「お前らがこんなことしようが何も警戒にならないけどな、俺はこれを200m離れていても心臓を狙える」
篠は一気に少年たちと距離を詰める。
「そんなものに振り向く必要あんのか」
篠と少年たちの距離は手を伸ばせば届くほどしかない。
「クナイは飾りじゃない。他の人にあたったらどうするつもりだった?お前らは投げても凶器にならないと思ってるようだし、斬れ味試してみるか」
篠の鋭い殺気に少年たちが身震いする。
突然篠は伸ばした腕を止めた。大人の足音が二人。先生が駆けつけたのだろう。角を曲がって30m。篠にとって関係ない先生であろうと面倒なことに変わりはない。
「じゃあな」
篠はクナイを捨てすぐにその場を離れた。篠から開放されても少年たちの緊張は解けない。しばらくあたりに散らばったクナイを呆然と見つめる。野次馬たちも動かなかった。なぜ篠が動きを止めたのかもわからず皆立ち尽くす。
「お前らなにやってんだ!」
突然の罵声に皆ビクッと体を動かす。その場にいた者も、篠が離れた理由がやっとわかった。背後に迫るクナイの位置がわかるほどだ、教師が来ることも察知したのだろう。止まった時間が動き出す。そこには当事者である篠の姿はどこにもなかった。