眩惑 2
その日の放課後、大介とユキチは1年B組の教室に残り、他のバンドメンバーが来るのを待っていた。そこへ細身で制服のよく似合う小西ユカが最初に顔を出した。
「お待たせ」
「あいよ、隣の教室だからお前が一番早いと思ったぜ。ところでユカ、外は雨が上がってるのか」
「止んだみたい、だけど風は相変わらずみたいだけど」
「今朝、大介はパンツまでびしょびしょだったんだぜ」
「本当、下着は大丈夫だったけどね、わたしも結構濡れたわよ」
「学ランは体操着に着替えたからいいけど、下着はどうにもならないから我慢したよ。だけど、やっと落ち着いた」
「それは大変だったわね」
「ところでユカ、A組にいい男はいないの」
「問題外、ダサい奴ばかりよ」
「そんなこといってても、すぐに男に入れ込むタイプだからなユカは」
「大介の前で変な事いわないでくれる」
「なあユカ、隠し事はなしでいこうぜ。これから一緒にやっていくのに惚れた腫れたが一番厄介だからさ」
「じゃあ、ユキチは何故大介に声を掛けたの」
「ああ、初めて教室に入ったら本なんか読んでてよ。文学少年みたいな顔してたから、どんな男か確かめてみたのさ」
「それだけ」
「第一印象は近寄り難かったな、不機嫌だったし。だけど、本に対するウンチクもいっちょまえに的を射ていて、作家になりてえなんてほざくからますます興味を持ったんだ」
「それでよくバンドを一緒にやろうなんていったわね」
「人を惹きつける魅力があったし、ギターをやってたって聞いて『こいつだ』と直感したんだ」
「ねえ大介、ユキチは押しが強いから断れる雰囲気じゃなかったんでしょ」
「ああ、最初断ったらみんなのいる前でいきなりオカマ呼ばわりさ。これ以上変な事いわれたらたまったものじゃないから、どうしようもなくて引き受けたのさ。だけど、ユキチの真剣な眼差しは力があったな」
「そんなことだろうと思ったわ。ユキチは獲物を見つけたら絶対逃がさないから」
「ユカ少しオーバーだな、そんなに怖くないぜ」
「でも、ユキチがそこまでいれあげるなんて珍しいわ。よっぽど大介に興味があったのね」
「ユカ、大介には彼女がいるんだぜ」
「そんなの関係ないじゃん。たまたま出会う順番が違っただけじゃない。運命なん て誰にもわからないわ。大切なのは相性なんだし、見かけだったらユキチもその辺のアイドルにだって負けないぐらい綺麗よ」
「そうだ、話さなかったらロッカーよりアイドル歌手の方がチャンスがあるかもしれない」
「大介よくいうぜ、アイドル歌手になるぐらいなら死んだ方がましさ」
「だけどさあ、ユキチが付き合うんだったらよっぽどの男でないと無理よ。男が男に惚れるっていうの、それぐらい男気がないとね」