眩惑 1
4月も中旬になり、大介の高校生活は2週間目に入った。
この日は朝早くから土砂降りの雨に加え、春の嵐が吹き荒れるというあいにくの空模様だった。
「月曜日から気が重いぜ」そう呟きながら大介はビニール傘を持って家を出た。
1階のエントランスに進むと今度は空を見上げて風雨を確かめた。
「この雨と風では傘は役に立ちそうもない」
だが、 大介は意を決するように傘を開き外へ飛び出した。
やっとの思いで高校にたどり着くと教室の扉を力強く引いた。
するとユキチが何事もなかったような笑顔でこちらを見ていた。
「大介、びしょ濡れじゃねえか」
「ユキチ、お前濡れてねえのか」
「頭からすっぽりレインコートを被ってきたからな」
「なんだよそれ、レインコートなんて恥ずかしくねえか 」
「いってる意味がわからねえな。濡れるよりよっぽどましだろ」
「おっしゃる通り、俺はレインコートを持ってないからこの有様さ」
「髪ぐらいタオルで拭いた方がいいぞ」
「ハンカチしか持ってねえよ」
「お前少しは頭を使えよ。この雨でタオルを持ってこなかったのか。まあいいさこれを使いな」
「ありがてえ、、ユキチはやっぱ女だな」
「お前今頃何をいってんだ。これまでは何だったんだよ」
「限りなく男に近い中途半端な女子高生」
「ひでえな、まあどうでもいいよ。そうだ男で思い出した。大介、ドラムが見つかったぞ」
「本当か、やったな。どこのどいつだ」
「松本実と同じE組の中村謙二っていう野郎だ」
「ユキチ、これでスタートラインに立てたな」
「あと3週間もないんだ、気張っていかねえとな。ところで大介、ギターは大丈夫なのか 」
「正直問題が多いな」
「何が問題なんだよ」
「リフとコードはいいけど、ギターソロがどうにもならない。1ヶ月じゃリッチーのモノマネはできねえよ」
「なんとかならねえか」
「やれるだけやってみるけど、保険としてオリジナルのソロも考えている」
「だけどさあ、他の楽器との兼ね合いもあるだろ」
「問題はそこさ。とにかくセッションをやりたいんだ」
「そうだな、『BURN』だったらあたいと実とユカは昔の勘を取り戻せばいいけど、謙二も初めてだと聞いているからとにかく頑張ってもらわねえと。大介、放課後空いているか。一度みんなで集まろうと思うんだ」
「そうだな、話したいことが山ほどあるから」
「意思の疎通はしっかりやらねえと、これからのこともあるから」
「OK、楽しみにしてるよ」