七転八起 4
直接会って話したことで気分が落ち着いたのか、洋子は笑顔でいった。
「大介のギターを聴いてみたい」
「お安い御用だけど、にらめっこみたいに顔が近くなるぜ」
「問題ないわ」
「OK、わかった」というと大介は膝をつきながら躰を反転させ、背面のギターを掴むとまた洋子の前に座り直して、おもむろにケーブルを手にした。
そして片方をアンプに差し込んだ後でギター本体にもカチッという音がするまで押し込んだ。
「しばらくヘッドホーンを使っていたのでアンプに繋ぐのは本当に久しぶりだ。音量をあげたらおふくろたち腰を抜かすぜ」
「本当に顔が近いわ」
「はじめからいってるだろ」
「変なことしないでね」
「変なことってなんだよ」
「スカートの中に足を入れるとか」
「ミニスカートだからな、そうしたいところだけど俺の足はそこまで長くないんでね」
「わかってる」
「こら!そうそうエフェクター通すとサウンドがカッコ良くなるけど、しばらく使ってなかったら何処かへいったかわからない」
「いい訳をするんだ」
「第一印象は大事だからな、一応いわないと」
「大介、そのパジャマなんだからカッコつけても無駄よ」
「わかったよ、じゃあこの曲はすぐにわかるかな」と素早く弾きはじめた。
「凄い、すぐわかった。『アラクレ』のイントロでしょ」
「さすがB'zのファンだ」
「よく聴いたもん」
「この曲のイントロはよく考えて作られているんだよ。歌詞にスピード感を出す味付けとしてリズムに変化をつける手法はよく使われるんだ。ところで洋子はB'zのどこが好きなのかな」
「躍動感があってカッコいいところ」
「まあ、誰に限らず見た目はアーティストにとって大切な要素だけど、松本が作り出した渾身のギターサウンドに、稲葉のインパクトのあるうたい方がB'zの最大のセールスポイントだろうな」
「偉そうに、じゃあ大介が感じるB'zのいいところは」
「洋子は稲葉の詞の意味を考えたことはあるかい」
「ううん、一度もない」
「稲葉はこの曲のメロディーを聴いて、一生懸命自分なりにイメージを想像したと思うんだ。それが本能のままに生きるワイルドな男性像だった。それに絡めて浮かんでくる単語を集約して、今度は言葉の語感だとか、リズムを照らし合わせるのさ。
そうだなボクシングで例えるならジャブ、ストレート、それにアッパーみたいにスリルに富んだ展開にしたんだ。
〜真っ赤な心臓は理性を越えて鳴るよ〜というフレーズがあるけど、心臓に理性があったら怖いよね。
たとえば思考に基づいて行動することの上をいくことをヤケッパチでいこう、みたいな感じにしたかったと思うんだ。つまり稲葉はここで必殺のストレートパンチを決めたかったのさ」
「ヘェ〜そうかもしれないわね」