七転八起 3
大介は心臓が止まりそうになった。
洋子が中途半端な気持ちで乗り込んできたのではない、と理解できたからだ。
今までの洋子からは想像もできない言葉だった。
大介自身こんなに心の奥深くまでこたえたセリフを今までいわれたことがなかった。
抱え込んでいたフェンダーのストラトキャスターをまずスタンドに立てかけると、すぐに大介は起き上がり2、3歩テレビ側に下がってから洋子にいった。
「狭いけどそこに座ってくれ。まだいいたいことがあるんだろ」
「うん、ちょっとキツかったかしら?」
「気にするな、ヘラヘラ答えた俺が悪いんだ」
「ありがとう」
「洋子が確かめたいのはユキチの事だろ」
「うん」
「正直に話すよ。俺が登校するときに余裕をもって出かけることは洋子もよく知っているだろ。
特に高校生活の初日だったから始業時間の2〜30分前には教室に入っていたんだ。
それで黒板に貼ってあった座席表を見て指定された席に座って本を読んでいた。
そしたら『おい』とユキチが声をかけてきたんだ。振り向いたら驚いたね、すごく可愛くてさ。だけど、話し方ががさつで見た目とは大違いさ。それでもって強引にバンドに参加してくれって誘われたんだ。
だけど俺はリッチー・ブラックモアのギターなんか全く興味がないと何度も断ったんだ。そしたらあいつにオカマ呼ばわりされてさ。ついカーッとなったけど、瞳を見たら驚くほど真剣な眼差しで見つめるんだ。最後はついに引き受けてしまったんだ」
「大介は押しに弱いから」
「はは、自分でも情けないときがあるよ。特にリッチーは他のロック・ギタリストとは感性が違うからさ。コピー譜のソロの音符をギターフレットで拾ってみたけど想像以上に難しいんだよ。ギターをもたないときも指使いのことばかり考えながら練習してみたけど、それでもうまくいかない」
「それじゃあ、どうするの」
「俺なりのギターソロを作るしかないんだ。あ、ごめん、話がそれたな」
「ううん、大介なりに苦労してたんだ。わたし、大介がユキチさんに夢中になっていると勘ぐっていたから」
「俺が好きなもは洋子だけさ。ただユキチは宝石の原石のように磨けばどう変化するか予想もつかないほどの魅力を感じるんだ。
洋子のヤキモチの焼き方にも驚いたけど、正直にいえばユキチの喜ぶ顔を見ることも俺にとってはもの凄く意味のあることなんだ。それは恋愛の感情とは少し違うのかもしれないけど、俺の心の中でどう処理していいのかよくわからないんだ」
「わたし、大介のことなら誰にも負けないから」
「目が怖かったな、本当に殺されるかと思った」