潮騒 5
コンピテンス2は今回をもって終わりです。来年の4月コンピテンス3でまたお会いしましょう。来週エピローグを掲載致します。
ユキチは意を決したかのように自分から唇を離して大介に向かって言った。
「あたいにはロッカーになることの他にもう一つ夢があるんだ」
「へえ〜、どんな夢だい」
「大介と一緒にイギリスへ行きたいんだ」
「なんだよ、そんなにハードルが低くていいのか」
「親を当てにしないで自分で旅費を稼ぎたいんだ」
「うーん、もっともな話だ。イギリスはロッカーの聖地だからな」
「大介もそう思うだろ」
「ヤードバーズを筆頭にビートルズ、ローリングストーンズ、レッド・ツエッペリン、そしてデープ・パープルもみんなイギリスで結成されたんだよな」
「うん、若いうちに実際にこの目で確かめて見たいんだ」
「でも自分たちで旅費を稼ぐのは大変だぜ」
「だから一緒にバイトをしようぜ」
「おいおい簡単に言うなよ。高校生が働けるところなんてなかなかありゃしないぜ」
「ファーストフードならあるらしいぜ」
「俺がオーダーを取るのか」
「嫌だったら調理もある」
「ハンバーガーを作るのか」
「一緒にロンドンの空気を吸おうぜ」
「ビッグベンとかバッキンガム宮殿は見たいけど」
「警備のお兄ちゃんたちもかっこいいじゃねえか」
「警備のお兄ちゃんって、まさか宮殿の衛兵のことじゃねえよな」
「そうそう、黒い帽子に赤い制服、そして黒ズボンのかっこいい人」
「ユキチにはかなわねえな、彼らは軍隊に所属する兵士だぜ」
「あと、どうしてもアビーロード・スタジオに行きたいんだ」
「ビートルズが同タイトルのアルバムを発表したからすっかり有名になったスタジオだな。そうだユキチはポールの死亡説を知ってるか」
「なんだよ、まだ生きてるじゃねえか」
「とんでも発奮な野郎だぜ。『アビーロード』のジャケットでポールだけが裸足で写っていたからそんな噂が流れたのさ」
「なんで裸足だと死ぬことになるんだ」
「そう言われると返事のしようがない。俺が生まれる30年前の話だから真相を確かめるなんて無理だからな」
「大介、ここを出ようぜ」
「家に帰るのか」
「馬鹿、バイト探しだ」
「えっ」
「二人の将来がかかっているんだから善は急げだ」
「そういえば昔、『恋の片道切符』なんて歌があったな」
「お前オジンだな、ニール・セダカだろ。そうか、向こうで二人で暮らす手があったか。それじゃ高校は卒業しておかないと」
「おいおい、冗談だぜ」
「とにかくハンバーガーを食いに行こう。ほら大介、手をつないで」
「えっ、マジかよ」




