潮騒 4
「ユキチ」
このひと言を言うことが大介の精一杯だった。
あまりにも突然だったため、感情をつかさどる神経がショートしていたのだ。
目の前のユキチにジッと見つめられて大介が金縛りのような状態だった。
まるでジェットコースターにでも乗っているかのように、心の導火線が急降下したかと思えば、急上昇してあまりの変化に対応できない。
一回深呼吸をして感情の昂ぶりを抑える努力をしてみるが、どうしても自分の意思通りに躰が反応してくれないのだ。
大介はユキチの策略にまんまとハマった。ここでユキチは勝負に出た。
「隣に行ってもいいか」
大介は、「ああ」と答えるしかなかった。この後、どんな展開になるのか、かたずを呑んだ。
しかし、表情はあくまでも冷静を装って、
「ユキチ、気づかなくて悪かったな」
「仕方ねえよ、彼女がいたんだから」と大介の横に腰掛けピッタリと躰を寄せた。
「いや、俺が悪い」
「あたいも色気がないからな」
「そんなことないさ、魅力的だ」
「だけど、急ぐことはないんだぜ。あたいの気持ちが大介に伝わっただけでいいんだから」
「時間をかけたからと言っていい答えが出るとは限らない。うやむやはもうゴメンだ。今俺にとって一番大切なのはユキチだってわかったんだ」
「あたいも凄く嬉しい」と大介の胸に顔を埋めた。
「ここ1ヶ月ユキチに認められたくて必死だったんだ」
「うん、凄くカッコよかった」
「だけど、ユキチのパフォーマンスには呆れたぜ」
「文句しか言わなかった癖に」
「当たり前だ。校長の恩を仇で返すわけにはいかないからな」
「注意してくれたのは大介だけだ」
「白熱のライブも一歩間違えば暴走だ。問題になったら誰かが責任を取ることになる。それが社会のルールだから俺たちも最低限自覚を持たなくてはいけないんだ」
「うん、愛してる」
「ありがとう、ユキチを絶対いい女にしてみせるから」
「一筋縄ではいかないぜ」
「もう離さない」
大介は左手を腰に回して力強く抱き寄せ、右手をユキチのアゴに添えてそっと唇を重ねた。強がっていてもやはり女の子だった。躰の震えが唇を通して全身に伝わってきて愛しさに溢れた。




