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潮騒 3


『TSUNAMI』をうたい終え、大介はユキチの決心を知らずにうなだれていた。その表情を確かめてからユキチは次の一手を切り出した。


「大介、お前滑舌がなってねえな。あれじゃいくら名曲だって駄作に聴こえるぜ」


「別にヴォーカリストを目指しているわけじゃねえよ」


「お前はなぜ人間だけが他の動物と違ってこんな高度な文明を築けたと思う」


「なんだよ藪から棒に」


「いいからどう思うんだよ」


「きっと猿の種族から突然変異によって伝達のエキスパートが現れたんじゃねえのか」


「夢がないなお前は。あたいは神様が人間を作ったと思うんだ」


「そういえば人間を神様と同じ容貌にしたという説があったな」


「そうだ、だけど伝達のエキスパートはいい線いってんじゃねえか。なぜなら会話から始まって文学、音楽、そして芸術とみんな人間の心の中から生まれた表現だもんな。この表現を手に入れたことによって人間は他の動物とは一線を画する存在になったのさ」


「それが本当によかったことなのか、疑問だな」


「確かに文明によって人間の生活は近代化し、自然は破壊されている。緑はなくなり、海は汚染されて、温暖化に拍車がかかり、人間は自分たちで自分の首を一生懸命絞めていると言っていい」


「俺の歌が下手なことと関係があるのか」


「大介、しっかり考えてみろよ。あたいたちは何を目指しているんだ」


「そりゃ、ミュージシャンだ」


「それじゃあ、ミュージシャンは何をするんだ」


「自分たちのメッセージを表現することに決まっているだろ」


「そうだ大介。じゃあ、木を例にすると大地の下にしっかりとした根が生えているから、あれだけ枝葉が自由に広がっていくんだ。同じようにあたいたちも自分たちの足元を固めてから、何をどう表現すればいいか悩まなくてはいけないのさ。音楽はリズムとメロディーとハーモニーで成り立っている。ギターのバッキングやソロなんてものは練習を積めばいくらでも上達する。だけど、ギターがうまいからといってみんなスターにはならないだろ。人を惹きつけ、魅了するためにはテクニックだけじゃダメなんだ。一番大事なのは心の叫びだ。ここで人間の真価が問われるんだ」


「ユキチ、何が言いたいんだ」


「わからねえか、ここなんだよ。疼いて疼いてどうしようもないんだ。お前の傍にいるだけで心の中がザワついて、横顔を見たらドキドキしちまう。あたいが女なんだって喜びを感じたのはお前が初めてなんだ」


大介にはあまりにも大きすぎる衝撃だった。



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