七転八起 2
桐原家の間取り2LDKで母の紀子と姉の久美子は6畳に同室。
大介も6畳の個室だが彼の部屋には紀子と久美子の季節ごとに入れ替える洋服のタンスがそれぞれ一つづつあり、さらに備えつけの小さなクローゼット、勉強机、ステレオ、ギターアンプ。そしてテレビが置かれていて自由にできる空間はたたみ一畳半ほどの蒲団を敷くスペースしかない。
つまり普段はあぐらをかきながらギターを弾くのが精一杯の広さなのである。
だから大介の部屋に来客が来ることなど今まで一度もなかった。もし来客があってもリビング通すのが家族全員の意識で、そこに盲点があった。
大介は自分の部屋にいるときはいつも超自然体で能天気だったからである。そこへ洋子が一気に扉を開けて仁王立ちしたのだから大介の目が飛び出た。
「よ、洋子!嘘だろ」
そこへ洋子は語気を荒げて、
「全然会ってくれないからこっちから押しかけたのよ」
「おまえやり方ってものがあるだろ」
「なによ、こうでもしなきゃ埒が明かないもん」
「ずーっと会えないわけじゃないと何度もいっただろ」
「せめて日曜ぐらいわたしに時間をくれてもいいじゃない」
「今はどうしても音楽を優先しなければいけないんだ。そんなことぐらいわかってくれてもいいじゃないか」
「よくいうわよパンダのプリントしてあるパジャマなんか着て」
「関係ねーだろ」
「しかもショッキングピンク」
「おふくろが半額セールでまとめ買いしたんだ。しかたなく着てんだよ」
「人のせいにするなんて最低だわ」
「本当のことをいってなにが悪いんだ」
「本当は自分で買ったんじゃないの」
「俺のセンスじゃないことぐらいわかるだろ」
「お母さんのセンスにするなんて人間性を疑うわ。だけど安心してわたしの心の中にしまっておけばいいことだから」
「ちっとも良くないよ」
「いいの少し驚いたけど大介は大介だから」
「なにわけのわからないところで納得してるんだ。もういいよ、洋子着替えるからリビングに行ってくれ」
「わたしここにいる」
「洋子、こんなパジャマ姿を見せたくないんだ」
「いいじゃない、それで。それよりユキチさんのことを聞きたいわ」
「今はなにもいいたくない」
「説明しないとただじゃおかないから」
「だって洋子に面と向かって話すことなんてなにもないぜ。別に好きでもねーし」
「本当のことをいってよ」
「確かにいい女だけどそれだけさ、俺には洋子がいるし」
「信じていいの」
「先のことなんてわからねーよ」
「殺したろか」