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自惚れ 1


会場は立ち見が出るほど盛況だった。洋子と説子は大介に言われた通りステージから向かって左側の一番前の席に陣取っていた。やがてハーツの演奏が終わって、辺りが暗くなると大介たちは一斉に駆け上がり、セッティングに取り掛かった。


都立海東高校は公立では珍しく演劇部があり、今日のステージも舞台として使っているから照明器具が備わっている。ユキチも自分のポジションにテープでマークをつけていた。


大介が立ち位置に着くと黄色い悲鳴が響いた。大介には振り返らなくともその声が誰のものか容易に理解できた。客席の暗さに慣れてくると洋子と説子の姿がはっきりと確認できた。洋子が大介と同じデザインのTシャツを着ているのを見て、彼女の思いが痛いほどわかった。正直、今どきのカップルがペアルックを着て、街角を歩いている姿なんて見たことがないが、恥ずかしいというよりむしろ勇気が湧いた。大介は決めてやると発奮した。


ユキチは黙って周りの様子を伺っていた。ミキサーからOKの合図が出た。ピンスポットが当たる同時にアナウンスが流れた。「レディース•アンド•ジェントルマン。3組目のバンドはデッド•ピープルです。歌は『BUR〜N』。


ユキチが叫ぶ。「ギター•カモン」


間髪を容れずに大介のギターが悲鳴をあげる。待ってましたとばかりに実が同じリフを繰り返して音に厚みを加えると、ドラムが鼓動を始め、ベースの重低音が響き渡る。


ユキチは中央でじっと目を瞑っていた。心を落ち着けるために精神統一をしていたのだ。


そして自分の順番が回ってくるとスタンドマイクを両手で鷲掴みにして、ありったけの声を振り絞りうたいあげた。ステージ上に照明が当たりヴォルテージは一気にヒートアップした。


彼女の一挙手一投足で観客が波のように揺れた。ここまでくれば”アタイのもの”とばかりにシャウトし、挑発し、ジャンプして胸元は大きく弾んだ。会場は興奮のるつぼと化す。


大介は目を疑った。観客たちが全員立ち上がり将棋倒しになっているのだ。危険だ!洋子と説子が後ろから押し潰されそうになっていた。だが、演奏をやめるわけにはいかなかった。ユキチは手を伸ばしてくる聴衆をあざけり笑うかのように、頭を上下に振り、もっとこいと手招きを繰り返した。


こんな状況でも洋子は冷静だった。だけどユキチの美しさに驚いた。まるで新垣結衣じゃない。こんな人が相手だったなんて予想もしていなかった。でも、パーフェクトな人間なんているはずがない。きっとチャンスがあるはずよ。最後まで諦めないわ。


会場はおしくらまんじゅうになっていた。ユキチは魔女に化けてみんなを魔界へといざなっていた。大介は初めて人間の本能を垣間見た気がした。


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