ざわめき 3
無事に2回のリハーサルをこなした大介は、本番前であったが久し振りに笑顔を取り戻していた。だが、そんな心境も次のバンドがベールを脱いだ瞬間、すぐに吹き飛んでしまった。
「ユキチ、今演奏しているバンドのギターは只者じゃないな」
「ああ、ポセイドンか。あいつは加茂中の土屋治だ。ちょっとした有名人さ、B'zを得意としている」
「ヴォーカルの金髪の女も声量はあるし侮れないな」
「super fly をうたおうって言うんだからある程度自信が必要だろ」
「ドラムもいいリズム感を持っている」
「中学時代も土屋と一緒にやっていた奴さ。ヴォーカルはここで見つけたんだろ」
「ち、憎たらしいほどコンビネーションがいいな、もう完成の域だ」
「ああ、比較されたらあたいたちの方が分が悪い」
「悪いのは俺だな」
「馬鹿野郎なにを言ってんだ。お前だって短い時間の中で頑張ったじゃねえか」
「音の厚みが違うんだ。やはりキャリアは隠せないぜ」
「大介考え過ぎだ」
「後ろであんな演奏されたんじゃ敵わねえぜ、絶対ミスはできねえし…」
「今のままでいいんだ、変な考えを起こすんじゃない」
「ユキチの言う通りだぜ大介、俺たちにはこれからの方が大切なんだ」
「実ありがとう。しかし、あんなに気持ち良く演奏するのを見せつけられると悔しいんだ。俺は精一杯なのに」
「ベースとキーボードだって目立ちはしねえがプレイは堅実だ。1ヶ月でここまで仕上げるんだから俺たちも見習うところはしっかり見習わないといけない」
「よくわかったよ実、いいところは盗まないと…。この後はどんなバンドが出てくるんだ」
「十戒だってよ」
「ユキチ、またとんでもないバンド名だな。旧約聖書に出てくるやつか」
「神からモーセに与えられた10個の権利だったっけ」
「権利じゃなくて戒律だ。聖職者が守らなくてはならない決まりみたいなものだ」
「ヘェ〜、実すごいな、お前クリスチャンか」
「馬鹿言え、きっと『天国への階段』に引っかけたんだろ。こんなの一般常識だ」
「今度はレッド•ツエッペリンかよ。みんな強敵に見えてきたぜ。自信をなくすな」
「そんなものあったのか大介」
「そのセリフ何回言われたかわからないぜユキチ。少しぐらいなら俺にもプライドがあるさ。だけど、今までやってきたことが大したことじゃない、とわかっただけでもいい勉強さ」
「俺もそうだ」
「謙二、俺たちは心を入れ替えてやらないとダメかもしれねえ」
「素直なのね、私そういう人好きだな」
「ユカ、なにも出ねえぜ」
「いいじゃねえか、望むところさ」と、ユキチが不敵な笑みを浮かべた。




