ざわめき 2
「思った以上に狭いな」
これがステージ左側にセットされたギターアンプの前に立ったときの大介の第一印象だった。セッティングといってもやることといえば、シールドをアンプとギターに差し込むだけで、後はみんなと音量を合わせれば終わりである。
幼稚園や小学生の頃、お遊戯会で壇上にあがった経験があったが、あのときはこれほど窮屈ではなかった。特にヴォーカル用のモニタースピーカーが邪魔でターンなどしたらすぐにでも転けそうだった。
一方、
「なんてこったい」
謙二が頭を抱えていた。他のメンバーはセットアップが完了しているのを尻目に一人だけモタモタしていた。前の演奏者が女性ということもあって、ドラムを全て組み直さなければいけなかったからだ。
「もう少し時間をくれ」
「謙二、焦ることはないぜ。納得するまでやってくれ」
「ユキチ、だけど練習をたくさんやりてえからな。後はハイハットの位置だけだ」
すでに実は澄ました顔でキーボードの前でジッと立ち、ユカは自分のパートを黙々とうたっていた。
「よし!OKだ」と謙二が叫ぶ。
それを合図にみんな一斉に音量を全開にし、実が凄まじい早弾きで盛り上げていく。それを待っていたかのようにユキチが雄叫びをあげた。
「ジャスト•ウイ•アー•デッド•ピープル.ディス•イズ•『BURN』
大介のギターから電光石火のフレーズが唸りを上げる。〜ズダダダー ズダダダーダ ズダダダーダー ダダダダー〈ドドドドーン〉
ドラム、そしてベースが間髪を容れずに加速する。すぐにヴォーカルのパートがやってきた。
「〜The sky is red.I don’t understand〜」
ユキチの力強いヴォーカルがシャウトするとボルテージは一気にあがった。
大介はこのとき不思議なくらい冷静で、視野に入る人間たちがあっけに取られて声も出ない姿に痛快さを感じていた。
ユキチのライヴパフォーマンスが幕を開けるとその魅力はかなりやばかった。お前は地球上の男を全て虜にするつもりか。お前を見たら最後、男はみんな気が狂っちまう。正にお前はそう魔女だ。
「〜All I hear で一呼吸開けてから ”is burn”〜で大介もありったけの声を出した。
「よし、休符もコーラスも文句無しだ」と実が指示を出す。
ここまではなんとかなった。しかし、大介は安心できない。ドラムとベースのリズムに必死についていった。ユキチなら少しぐらいの乱れはなんともないだろうが、大介にはとにかく経験がない。一度ペースを乱したら一巻の終わりだ。ましてやここからのソロは覚えたばかり未知の世界なのだ。GmからE♭に変わるタイミングを逃してはならない。いよいよだ。すると実が大介の心を読んでいたかのように大きなジェスチャーで合図をくれた。「よし!」とひたすら弾きまくった。最大の難所と思っていた場所を乗り越えたとき、大介は「いける」と確信した。




