ざわめき 1
【お詫びと訂正】先週の最後の文章で、『非凡ではない』となっていましたが『凡人ではない』の誤りです。すいませんでした。
大介は次がリハーサルの順番だというのにボズ•スキャッグスの『Breakdown Dead Ahead』をうたうハーツというバンドの演奏に釘付けになっていた。
それもそのはずである。大介は小学生の頃からボズの音楽スタイルに惚れ込んでいた。どんな奴らが演奏するのかと思えば5人組のガールズバンドである。ロック界の伊達男の異名とったボズが、彼女たちの演奏を聴いたらきっと腰を抜かすな。
なんたってかわいいのである。この曲は今にも彼女に振られそうな男心をうたったものだ。お前らがうたってどうする、そんな反感が大介にはあった。しかし、うまいとか下手というレベルの問題ではない。目の付け所がいいのである。ボズの色気を女性が表現したら、こんなにお茶目になるという驚きである。
ちっぽけな都立高校だとばかり思っていたが、これだけ才能を持った奴らがいる、そう考えただけで嬉しくなった。俺もしっかり前を見て生きていこう、と大介は肝に命じた。
そんな呆気に取られている姿を見てユキチが近づいて来た。
「大介、衝撃を受けたってツラだな」
「ああ、おっしゃる通りかなり驚いている。1970から80年代はロック界も円熟期を迎えるんだ。そして驚くほど次から次へと個性豊かなアーティストたちが台頭する。俺はこの時期に生まれたかったな。そしたら人生がきっと変わっていた。女のケツばかり追っている奴もいれば、完全にイカれてる奴もいたし、真剣に愛の尊さをうたいあげてる連中もいた。本当にみんな楽しそうに独自のフィールドを駆け回っていたんだ。
後から生まれた者は彼らを土台にしてもっと素晴らしい音楽を作らなければいけない。昔にいい曲がありすぎるというのも罪作りだってずっと感じてた。でも、その考えは今日を境に改めなければいけない。彼女たちが俺にその勇気をくれたんだ」
「いいことじゃねえか、視野は広いに越したことがない。大介も勉強することが多くて大変だな」
「ユキチ、奥歯に物が挟まったような言い方だな」
「別に他意はねえよ」
「そういえば練習が忙しくてゆっくりユキチと話す機会がなかったな」
「別にお前と話すことはねえよ」
「本当に可愛くねえな」
「生まれつきだからな」
「まあ、そこがいいのかもな」
「惚れるなって言ったろ」
「俺は真剣に考えているんだぜ」
「本当に幸せな野郎だ」
「本当の愛がどういうものなのか、わからねえんだ」
「ふん、そんなのいなくなったらすぐわかるさ」
「それじゃ取り返しがつかねえだろ」
「忘れろ、もうリハーサルがはじまる」
「余計な心配したもんで緊張感がどこか飛んでいったようだ」
「役に立ててよかったよ」
「女じゃなかったら首を締めるとこだ」
「本望だね」




