希望 4
出演者の学生たちはPAセッティングと椅子並べの二手に分かれて作業を始めた。大介は謙二と折り畳みの椅子を用具室から出して会場に並べる方に回った。
「大介、彼女がいるんだってな。どこまで進んでいるんだ」
「何の話だよ」
「馬鹿野郎、男と女と言ったらあれしかねえだろ」
「なんだ、謙二が期待するほど進んじゃいねえよ」
「本当か、隠し事はなしだぜ」
「嘘じゃねえよ」
「じゃあ、今日来るのか」
「ああ、きっと一番目立つ場所にいるはずだ」
「いいな。話は変わるけどユキチって美人だな」
「そうだなユキチを一目見て嫌いになる男なんて、この世の中にいないと思うぜ。あいつはアイドルでデビューした方がいい。ただ本人は生理的に受け付けないみたいだけどな」
「彼氏はいないのか」
「ああ、性格が男以上に骨っぽいからな。生半可な奴は相手にしねえよ」
「でもそういう女を自分好みの色に染めたいってのが男の願望じゃないか」
「はは、人間というのは口で言うほど簡単にはいかないものだ。特にユキチのハートは鉄のカーテンみたいに頑丈だからな」
「俺には無理だけど、立候補する奴は多いはずさ」
「権利を自ら放棄するのか」
「違うわい、恋愛対象じゃなくバンドのメンバーとして仲良くやっていきたいだけだ」
「確かに気心を知ることもバンドを長続きさせるコツかもしれない」
「大介は音楽で飯を食っていきたいのかい」
「プロっていうことか?音楽は小さい頃から聴いているけど、仕事にしたらどうかな。常にヒット曲を出せというのも辛いものだ」
「大介、向こうは終わったみたいだぞ。2人組がステージでアコギのチューニングをしてる」
「ああ、『粉雪』は男2人組のデュオか」
「進行表にべイビークライって書いてあった」
「パッとしないな」
「なんでそんなことを言うんだ」
「雰囲気を持っていないというのは致命的だ」
「そんなの持って生まれたものじゃないか」
「そう思われたら歌で黙らすみたいな気概は必要さ。いいか謙二、君がサザンみたいになりたかったら彼らと同じことをしていてはダメだ。アーティストが伸し上がる条件は、チャンスを見逃さないこととファンの声援に応えること、そして時代の要求を掴む貪欲さだ。加えて人間にはいつも満たされたいという欲求がある。その心理を常日頃から考えて自分なりのメッセージとして聴衆に届けることが重要なんだ」
「俺は音楽がただ好きだからやっているんだ」
「そうだ、それが一番大事なことだ。悪かったな謙二。みんなのところへ行こう」




