七転八起 1
コンピテン2はコンピテンスの続編です。
霧島洋子はとにかくプンプン怒っていた。
入学した高校は大島説子と同じとはいえ、クラスが違うから思うように会うことができない。
気の合う友だちができれば少しは気が晴れるのだが、とにかく桐原大介のことが気にかかる。
たまたま隣に居合わせたユキチという女の出現は不発弾ならともかく、大介の様子では致命的な存在にならないとも限らない。
洋子はとにかく毎日無差別にメールを送った。しかし彼からの返信は「今は会えない」とか「困らせないでくれよ」といつも素っ気ない。
しまいには「日曜日に会えなかったら死んでやる」と脅かしても、「ライブが終わったら死ぬほど会えるからさ」と、どうあがいてもつれない態度なのである。
洋子だって大介がはじめてステージで演奏するために必死で努力しているのは百も承知である。だけど、中学時代のように毎日会えないのだからせめて日曜日ぐらいは一緒にいたい。(もうこうなったら奇襲作戦しかない)と覚悟を決めた。
次の日の日曜日、洋子は鮮やかなライトグリーンのミニスカートに、上着は白地にピンク色のボーダーという出立ちで家を出た。
すると街は心地よい風と共に桜の花弁が舞い上がり春爛漫であった。さらに彩りのある陽光が窓ガラスのあちこちで乱反射して木々までもがキラキラして弾むようであった。
洋子は心の中で(いきなり部屋に飛び込んだら大介はどんな顔をするかしら)と1週間ぶりに会える期待でドキドキしていた。そんな募る思いを胸いっぱいに詰め込んで歩いていたらあっという間に大介の住むアパートに着いた。
エレベーターで3階まで上がって表札を確かめた上で洋子は勇気をもってインターフォンを押した。
〈ピンポーン〉
「どちらさま」という紀子の明るい声がスピーカーから響いた。
「霧島洋子、洋子です、お母さん。大介はいますか」
「あら、洋子ちゃんなの。今ドアを開けるから」
「こんにちはお母さん」
「洋子ちゃんも元気だった」
「はい」
「そういえば大介少しおかしいの。部屋から一歩も出てこないし、引き籠もりにでもなったのかしら。洋子ちゃんなにか知ってる?」
「あら!大介はお母さんになにも話していないんですか?今度のゴールデンウィークに学校でバンドを組んで演奏することになったんです」
「それ本当?全然知らなかったわ。じゃあギターの練習をしてたんだ。高校に進学した途端に閉じ籠りでしょ。学校が合わないのかと思って心配しちゃったわ」
「じゃあ大介は秘密にしてたんですね。きっとみっともない姿は見せたくないんです。
私が今日来ることも知らないから驚くと思います。なかなか会ってくれないので思い切って来ちゃいました」
「まあ、大介は飛び上がって腰を抜かすわ。だけど洋子ちゃんひどい部屋よ」
「それがいいんです」