希望 1
ライヴ前日になり大介は忙しかった。午前中に学校が終わると真っ先に家に帰って、学生服を普段着に着替えて台所に向かった。
土曜日は姉の久美子はバイトがあり、母の紀子も夕方まで仕事があるため、いつも大介は一人で食事をしていた。
しかし、大介はこの日が来るのを楽しみにしていた。それはセブンで発売されている好物の「日清 蒙古タンメン中本」のカップ麺が食べられるからだ。
近頃話題に昇っている最辛のカップ麺「日清 北極ラーメン」は、素人が食べるにはやばいという噂を耳にしているが、そんな話題を聞けば聞くほど一度はトライせずにはいられない心境になっていた。
大介は実際に蒙古タンメンを食べた経験があるが、本物は野菜も豆腐も煮詰まっていて食感も悪くただ辛いだけである。却ってカップ麺の方が辛さが控えめで、素材が生かされていて美味いと感じていた。
これに母が握ってくれたおにぎりを一緒に食べることが、至福の喜びだった。安いものである、これでいいのだから。
食事も終わり、明日のためにしばらくサウンドチェックをしていたら玄関のチャイムが鳴った。急いでドアを開けると洋子が立っていた。
「私が来るの待っていたでしょ」
「あは、しょってるな」
「無理しなくてもいいわよ」
「今日はやるべきことがたくさんあるんだ、邪魔しに来たのか」
「大事なもの忘れていない」
「ごめん、ステージ衣裳か。洋子に言い忘れていた」
「何を忘れたの」
「昨日、ユキチから連絡があって衣裳は高校生らしく学生服か、Tシャツにすることになったんだ」
「神様がちゃんといるのね、この紙袋開けて見て」
「なんだよ、後でもいいだろ」
「ちょっと、玄関で帰す気」
「あっ、ごめんごめん今誰もいないんだ。リビングで待っててくれ」
「えっ、本当?嬉しい」
「変なことする時間はないんだ」
「何よ、意地悪」
「さあ、入った入った。オレンジジュースでいいか?」
「うん」
大介は台所に行き冷蔵庫の扉を開けてペットボトルを取り出すと、二つのグラスにオレンジジュースを注いだ。それをお盆に乗せそそくさとリビングに向かった。
「お待たせ」
「大介早く紙袋を開けてよ」
「アイよ。わお、グレーのTシャツに黒と白の星の刺繍か、センスいいな」
「喜んでもらえると作った甲斐がある」
「洋子のお母さんにも礼を言わないといけないな」
「母に美味しいもの作ってもらうから」
「楽しみだな」
「約束よ」
「洋子の親金持ちなんだろ」
「普通だって……」




