戸惑い 5
あれから何をしたのか、どうやって帰ってきたのか、そんなこともわからないほど大介の心は乱れていた。この異変を家族に悟られないようにテレビのボリュームを上げ、さらにステレオから音楽を流すという念の入れようだった。しかし、ここまですると却って目立っていてまるで笑い話だが、そこまで気が回らなかった、というのが実情だった。
告白されたのは2人目だが、突然の奇襲は何度やられても慣れることがない。なぜなら、津波のように全てを飲み込んで凄まじい破壊力があるからだ。オロオロするしか手がないのは男として情けないが、下手な小細工が通用するとは思えなかった。
洋子の場合はすごく力があった。それは中学に入学した当時から大介に関心を持ち、授業風景から歩き方、洋服のセンスや仕草、そして話し方に至るまで全てを見守り続けた上での告白であったからだ。つまり2年間の熟成によって育まれた愛情だった。
そんな力強さとは反対にユキチの愛情はか弱さを感じた。普段あんなに突っ張って男みたいに振舞っていた彼女が、そんな鎧を脱ぎ去りありのままの姿で向かったくるのに、どうして見捨てることができるだろう。しっかりと受け止めてやるのが男である。大介もそう信じていた。
しかし、それはジレンマを抱くことになる。
タイプの違う2人の女性、どちらも魅力的で、その上大介のことを誰よりも愛してくれている。
そんな彼女たちの想いに応えることができる男なのか大介自身も自信がなかった。
これまでやり通してきたと胸を張って自慢できることが何一つないのだ。
本当の愛がわかるまで時間が欲しかったし、自分から女性のことを心から愛したいと思った。結局、最後はどちらかを裏切ることになるのだ。
そんな堂々巡りをしていたらいたたまれなくなって、気づかないうちに洋子の携帯の番号を操作していた。呼び鈴がなるたびに何度も唾を飲み込んだ。7回目のコールが響いたときだった。
「大介、練習うまくいった」
「ああ、なんとか形になったよ」
「かっこいいだろうなー」
「他の奴らと変わんないよ」
「私の作ったステージ衣裳着てくれる」
「そんなこといつ覚えたんだ」
「今回が初めて」
「おいおい、ちゃんと着れるのか」
「うん大丈夫、仕上げは母だから」
「こいつ」
大介はすこしづつ自分を取り戻していた。




