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戸惑い 3


大介はユキチが右手を高々とあげ、振り下ろすのを合図に弾き始めた。


ギターの3フレットから目まぐるしくポジションを変えていく。


指だけに全神経を集中させて無我夢中で大介は演奏した。だが、その存在が霞んでしまうほど実の実力は凄まじかった。ひとつ一つの音がまるで生きているかのように躍動し、一緒に演奏する者が身震いを起こしてしまうほどなのだ。


次に謙二のドラムが鼓動を開始し、ユカのベースが重低音を響かせる。そしてユキチの出番だ。


「〜The sky is red.I don’t understand.Past midnight.I still see the land〜」


出だしからデイヴィット・カヴァデールにも負けない力強い歌声が大介の中枢神経を貫いた。


謙二はともかく藤井中の3人の腕前はウソだろ、と叫びたくなるほど強烈だった。明らかにミュージシャンとして自覚が演奏に反映していた。


大介は先ほどのユキチのセリフ”どんな苦労も惜しんじゃいけないんだ”が頭の中でリフレインしていた。苦労なんて才能のない人間がするものだと思っていた。しかし素質のある者が進んで努力するからこそ、別次元の世界へといざなうことができるのだ。大介はほんの少しのうんちくをひけらかして自己満足している自分を恥じた。


そしてあっという間にワンコーラスが終わっていた。ユキチがみんなの表情を確かめてからゆっくりと口を開いた。


「謙二、入りはいいんだが、歌が始まるとどうしても焦るのかペースが早くなる。だから今は正確なリズムを心がけてくれ。俺たちの演奏は確かにディープパープルが模範だが、俺たちのカラーが出せなければ意味がない。その辺のところをよく考えてこれからも練習をしてくれないか。イアン・ペイスなんて一人いれば十分さ。それと大介の場合は経験不足だな。とにかく場数を踏めばレベルなんてすぐ上がるから。最初は誰だって初心者なんだから無理をすることはねえよ。じゃあ一度俺たちが見本をやるから謙二と大介はじっくり見ててくれ」


「OK」と二人が応えた。


力強く実が演奏を始めると、ユカが呼応するかのようにベースを刻んでいく、すぐにユキチの順番が回ってきた。彼らの織りなす音楽は、まるで意地悪な魔法使いの魔法のように心地よく刺激的だった。


大介は宝石の原石のように手を加えればいくらでも光を放つユキチの姿に見惚れていた。彼女なりに真剣に取り組んできたからこそ今がある。小さな躰に夢をいっぱい詰め込んで生きてる姿が、大介にはちょっぴり羨ましくもあり、憎たらしくもあった。ただ、ユキチに対する想いが変化しつつあることは紛れもない事実であった。


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