眩惑 5
バンドの 合同練習の朝、大介は 9時に目を覚ました。パジャマ姿で洗面所で顔を洗ってから、僅かに伸びたヒゲをカミソリで剃り、そのまま台所へ向かった。すると姉の久美子は、もう外出用のカッコをして朝食を食べている最中だった。母親の紀子が大介に気づいて、
「ハムエッグとトーストで文句ないわね」と声をかけると、
大介は、
「コーヒーはブラックで、目玉焼きは両面の ウエルダンで頼む」との会話に、
久美子が、
「ばっかじゃないの。あんたステーキでも食べるつもり」
「馬鹿はどっちだよ。言葉なんて伝わればいいのさ。ハードだと固茹で玉子と勘違いするかもしれないだろ」
「あんたハムエッグを注文してハードボイルドを出す馬鹿なんているかしら」
「そんなことより朝早くから厚化粧に派手な格好してどこへ行くんだよ」
「関係ないでしょ。なんであなたに行き先をいわなきゃいけないのよ」
「どうでもいいさ、ただ男と会うんだったらすこしケバいな」
「失礼ね、どこがケバいのよ」
「顔が派手なんだから、服ぐらい地味にしろよ。紫のブラウスに白のフレアスカートなんて汚れやすいし、機能的じゃない」
「ケバいところなんてどこにもないじゃない。だいたいショッキングピンクにパンダの顔がプリントしてあるパジャマ姿の男になにもいう権利なんてないわ」
「馬鹿野郎、パジャマと外出着を一緒にする奴がいるか」
「いい男ってのわね、いつ何時だって気を抜かないものよ」
「家族にいいところを魅せようなんて考えないんでね。それより、ブラのラインが見え見えだぜ、パンツも危ないんじゃないのか」
「あんた、いくら姉弟でもデリカシーがないわね。いいのよファッションなんだから」
「そんなにヤラレたいのか。好きにすればいいさ」
「大介、そんな考え方でよく彼女が出来たわね。洋子ちゃんにもすぐに振られるわよ」
「その辺のTPOは大丈夫さ、人間が出来ているから。家族以外の女性にこんな本音をいうはずがないだろ」
「あーあ、不愉快。レベルの低い奴と話すと疲れるわ」
「それはこっちのセリフだ。姉貴みたいな女とデートする男の気が知れないぜ。ただの発情中のメス豚じゃねえか」
「コラ!大介。いっていいことと悪いことがあるわよ」
「姉貴、勘違いするなよ。セックスは性欲の捌け口じゃない。交わり合って『安らぎ』や『喜び』、そして『しあわせ』が感じられるのが人間なんだ。これまでそんなことも考えずに男と付き合ってきたのか」
「童貞のあんたのセリフじゃないわ」
「本に書いてあったのさ」
「だと思ったわ」
「俺は文学少年だからな」
「よくいうわよ、中3になるまでまともに本を読んだことがなかったくせに」
「ふん、不思議と本も読む人間を選ぶっていうぜ」
「こらこら2人とももういいでしょ。早く朝ごはんを済ませてちょうだい。片付かないじゃない」




