眩惑 4
あれから大介なりに一生懸命努力していた。だが、そんな僅かな時間でリッチー・ブラックモアと同じ演奏ができるはずもなかった。
普通、ギターがうまく弾けるようになるためには、どうしても2年や3年のスタンスが必要である。
このことは大介自身も十分わかっていた。それでも引き受けた背景にはユキチの存在がある。無理だと承知していても1%の可能性がるのならそれに賭けてみたい。ユキチとは男にそう思わせる何かがある女性なのだ。
具体的に説明しろといわれてもうまく表現できないのであるが、ただ何かにとりつかれたように魔法をかけられてしまうのだ。
時間はあっという間に過ぎて土曜日になっていた。
大介はこのときリッチーの演奏をコピーするのをやめていた。もうどうあがいても無理なのである。21回出てくるギターリフとコード進行だけ頭に叩き込んで、後はオリジナルのギターソロに時間を費やしていた。
どうせ作るのならリッチーの好きなバッハの音楽を参考にしようと思った。だが、大介はクラシックのことを全く知らなかった。インターネットに繋いでバッハを検索しても出てくるメロディーはどれも退屈でパッとしなかった。
大介がこれまで馴染んできたポップス、ブルース、ロックとは明らかに畑が違っていた。現代のヒット曲というのは覚えやすいように1つのモチーフを繰り返したり、サビを最大限に生かしたドラマチックな演出をしたりするのだが、昔の人々はきっとバッハにそんなものを求めたりしなかったのだろう。オーケストラの生演奏、そしてそれにあった1音1音の旋律に喜びを感じていたのかもしれない。
だが、バッハの音楽は苦痛以外の何物でもなかった。とうとう大介は追い詰められてしまった。残された道は最も音楽センスに長けている実に相談することだった。大介は早速電話をかけた。
「実、今話しても大丈夫か。頼みがあるんだけど」
「おー、大介か。そろそろ電話が来ると思っていたよ」
「うん、もうギターソロが限界なんだ」
「ははーん、やっぱりな。リッチーの演奏がそう簡単にできるわけがねえよな。やったことがないんだから」
「うん、癪だけど手に負えない」
「よしわかった、明日みんなで考えよう。ディープパープルの事なら藤井中の3人に任せな」
「ありがとう、自分ではもうどうにもならないんだ」
「他人行儀な事をいうなよ。俺は謙二のことも心配だから今から電話してみるよ。あいつも行き詰まっていると思うからさ、じゃあ、大介電話を切るぜ」
「うん、わかった」




