プロローグ
神前高校オカルト研究部――通称オカ研。
毎年、悪魔が生徒達の中から生贄を選出し、呪術、召喚術、降霊術など数々の怪しげな儀式を執り行うと言われ、校内で最も恐れられる組織だったのは昔のことだ。
何者の手出しも許さず、公然と厚かましく存在した腫れ物であった。
そんな黒魔術教団をあっさりと滅ぼしたのは一人の男子生徒だった。それも部員だったはずの、部長にまでなったオカルトマニアと思われていたはずの人間である。
彼はオレンジ色の髪の悪魔、《魔界王子》と呼ばれていた。
怪奇に魅入られた者にとっての聖域、否、そんな言葉はふさわしくないだろう。
暗黒の領域ながら、オカルトマニアにとっての確かな楽園を、理想郷を、再起不能なまでに踏み荒らした。
後に彼は《伝説の悪魔》と呼ばれることになる。
その《伝説の悪魔》は今彼の目の前でニヤニヤと笑っている。
そして、彼は敗北を悟っていた。
この男には絶対勝てない、本能が告げている。少なくとも一人きりでは敵うはずがない。自分は凡人、相手は悪魔にも等しい。その違いはただ対峙しているだけで、ひしひしと感じる。それは彼が恐れを抱いている証拠でもある。
「くそっ……俺は必ず部としてオカ研を再建してみせる!」
憧れのオカ研は廃部になった。部室はがらんどう、かつての栄華は感じ取れない。
「あー無理無理」
部長になったはずの男は何の未練もないように手を振っている。愛着など全く感じさせない。
彼の部長として最初で最後の仕事が廃部であった。なぜ、そんなことをしたのか、理解できない。
「無理じゃない! 俺はやってみせる!」
渾身の宣言であった。彼に憧れてここまできたはずなのに、まさか敵対することになるとは思ってもみなかった。
本来、ここで全く別の宣言をするはずであったのに、全ては《伝説の悪魔》のせいで壊れた。
「ま、せいぜいがんばっちゃってよ。俺がいる内は勝手なことさせねぇから」
どこまでも面倒臭そうに《彼》は言う。
けれど、必ずや古き良き時代のオカ研を自分が取り戻すと、その時彼は固く胸に誓ったのだった。