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第9話 アメリカの行く道

――― ホワイトハウス ―――

 

 

 此の時、アメリカ合衆国の政治の中心人物たるホワイトハウスの主である大統領フランクリン・ルーズベルトが車椅子に乗って会議室に入室して来るのを政治と軍事の上層部の面々が立ち上がって出迎えた。

 

「…座りたまえ」

 

 そんな面々にルーズベルトは上座に着くと着席を促した。

 

「……諸君、インド洋と地中海の現状はどうかね?」

 

 ルーズベルトの質問に全員が呻き声を上げるか、隣りの者と目線を合わせた。

 

「…残念ながら大統領、アイゼンハワー将軍からの報告ですとロンメル率いる機甲師団に押されてドイツに中東を奪われるのも時間の問題と報告してきています」

 

 予測していたと言え、此の報告にルーズベルトが顔をしかめた。

 イギリス東洋艦隊が命からがらケープタウンに逃げ延びた『フォーミタブル』を残して主力艦艇が壊滅したインド洋海戦の影響は直接的な物ではないがアメリカにも悪影響を及ぼしていた。

 東洋艦隊が壊滅した事でイギリスの海上戦力が著しく低下したが、特に米英が頭を抱えたのが日本から補給を受けたマダガスカルのフランス艦隊が復活してインド洋を完全に押さえ込んだ上にセイロン島に投降したシンガポール守備隊のインド兵から編成した自由インド軍が日本陸軍と共同で上陸・占領、しかも日本側の根回しで此の出来事に呼応してインド南部が一斉に決起してドイツに亡命していた独立運動家スバス・チャンドラ・ホースを首班とした南インド共和国が独立宣言が行われたのだった。

 しかも此の南インドの動きに武闘派のホースとは真逆の非暴力不服従運動を進める運動家マハトマ・ガンジーが反対した上にヒンズー教とイスラム教の宗教対立も含んだややこしい事態も起こってインドが南北に分裂・対立が発生してしまった。

 此のイギリスの生命線であるインドの出来事だけでも問題だったのだが、此の諸悪の根源である日本第一航空艦隊が南遣艦隊と合流して紅海に突入、沿岸基地を片っ端から空爆しながらスエズ運河を目指して進撃してきたのだ。

 勿論、イギリスもアレクサンドリアの地中海艦隊にて迎撃を行おうとしたのだが、ヒトラーの要請を散々蹴って引き籠もっていたイタリア艦隊が日本艦隊の進撃に連動して総出撃すると言う予想外の事態まで起こったのだ。

 実は此のイタリア艦隊の出撃は当の枢軸側にも全くなかったのだがインド洋の一件も加わって伊首相ムッソリーニ以下の首脳陣がドイツのフランス侵攻以来の火事場泥棒根性が復活、逆にドイツに空挺部隊を始めとした陸上戦力の協力を要請してきた為にヒトラーが暫く呆然とする出来事があったのだった。

 まぁ、イタリアがどうであれ絶好の好機である事をヒトラーも理解はしていて、戦力再編を兼ねてソ連方面を縮小して戦力を抽出、結果的に日独伊最初で最後の三国共同作戦が行われ、万に一つも勝目が無いと判断したイギリスは北アフリカからの完全撤退したのだった。

 只、イギリスはスエズ運河を使用出来ない様に運河内に貨物船を沈めようとしたが日本艦隊が予測より早く到来した性で失敗し、後に此の事は当事者達も分かってはいたが禍根となる。

 そして余り褒められる形では無いが、イタリア悲願の地中海制覇を達成した。

 勿論、日本は後顧の憂いを断ち、ドイツは中東の油を確保や北アフリカ方面軍のソ連戦への投入の将来性を見出だしていた。

 更にドイツはイギリスの海上戦力の激減した好機を逃さずフィヨルドに籠っていた水上艦艇の積極的活動を再開していた。

 

「…インド洋の戦艦群の壊滅……特に『ネルソン』と『ロドネー』の戦没はイギリスにかなり悪影響を及ぼしています。

最大の脅威であった戦艦が消えた事でヒトラーは戦艦群の出動を容認した模様です」

 

「更に未確認ではありますが、ドイツは摂取した『リシュリー』級三番艦のだけでなくH級の建造を再開し、『リシュリー』級は早くて年末にH級は来年の冬頃に竣工するそうです。

此の為、イギリスは慌てて『ライオン』級の建造を再開させましたが、間に合うのかは微妙です」

 

 どうもイギリスがドイツに振り回されている感じがしてルーズベルトが顔をしかめた。

 

「…それでイギリスは我々に何か言ってきているのか?」

 

「…イギリスは我々に戦艦を……特に『ノースカロライナ』以降の新造戦艦を、しかも複数の派遣を要望しています。

更に日本艦隊が太平洋に引き上げさせて釘付けにして欲しいそうです」

 

 簡単に予測出来てはいたが、イギリスの要望に誰もが露骨に嫌そうな顔をした。

 現にルーズベルトが右手を額に当てて渋い顔をしていた。

 

「…太平洋に『ノースカロライナ』や『サウスダコタ』を直ぐに回さなくても大丈夫か?」

 

「太平洋は基本的に空母が主体ですので暫くは大丈夫です。

ですが空母の護衛に新型戦艦が欲しい事には変わりありません。

それより空母の増援が急ぎ欲しいとミニッツは言っています」

 

「そんなに酷いのか?

既に『ヨークタウン』を回したのに?」

 

 ルーズベルトの質問に海軍作戦部長兼合衆国艦隊司令長官であるアーネスト・キングは太平洋艦隊司令長官チェスター・ミニッツからの要望をほぼそのままに伝えた。

 

「開戦当初に『レキシントン』を失っていますから。

それに日本は近い内に空母によるポートモレスビーの襲撃を計画している様ですので…」

 

 かつて艦長を勤めて愛した『レキシントン』の部分を何処か悲しそうに言ったキングの返事を聞いたルーズベルトは少し思案した。

 

「……『エセックス』級空母や『アイオワ』、『モンタナ』の戦艦の建造状況は?」

 

「致命的な遅れが出てはいませんが、どちらを優先するかで混乱しています」

 

 真珠湾攻撃で南雲が追加攻撃でドック等の修理工厰や燃料タンクを破壊した影響はかなり大きく、沈没した戦艦群で修理可能と判断されたのは『メリーランド』と『カリフォルニア』のみと言う有様で、他の戦艦は放棄されるか西海岸への回航中に沈没していた。

 しかも先の二隻は長期間の修理が必要な上に伊号潜水艦に加えて航空戦艦『日向』までを投入しての海上封鎖(但し投入戦力が中途半端であったが)によって回航中の艦艇や輸送船団が度々襲われていた性で真珠湾の基地機能の回復が中々進んでいなかった。

 只、その内の一隻の『ウェストバージニア』は回航中に護衛艦共々空母艦載機に撃沈すると言う奇怪な報告を極少数の生存者達から上がっていたが、日本空母群の所在を確認していた上層部は此を否定していた。

 まぁどうであれ、アメリカが戦艦が不足している事には変わりは無く、時代が移行しようとはしている空母との優先順位を巡って争いが行われていたのだった。

 

「…取り敢えず『ワスプ』と新造の『ホーネット』を追加で太平洋に回したまえ。

それと『クリープランド』級軽巡洋艦の空母改造案(後の『インディペンデンス』級空母)を認めよう」

 

「『レンジャー』はどうしますか?」

 

「………アレは取り敢えず残そう。

大西洋に正規空母が一隻もいないのは問題だしな」

 

 ルーズベルトの指示にキングは了承した。

 只、『ヨークタウン』に加えて『ワスプ』と『ホーネット』を取られる大西洋艦隊司令長官ロイヤル・インガソルは嫌そうな表情をしていた。

 しかも自分達の手元に唯一残る空母『レンジャー』は欠陥艦なのだから尚更だった。

 『レキシントン』級空母に次ぐ古参空母『レンジャー』は元々少数の大型空母か多数の小型空母のどちらが秀でているかの試験に加えてワシントン条約時に適応外であった1万5千トン未満の小型空母として建造されていたが、その途中で締結された第一次ロンドン条約で小型空母の適応外が廃止された為に開き直った上層部の指示で一段のみだった格納庫を二段へと無理矢理増設したのだった。

 その結果『レンジャー』は安定性を著しく欠いた空母として竣工し建造を予定していた同型艦は全て取り止めとなり、代わりに建造されたのが傑作空母『ヨークタウン』であった。

 何とも自業自得と言うべき出来事だが、日本も『龍驤』と言う形で全く同じ失敗をしているので笑う事は出来なかった。

 但し建造経緯が同じ両者だが経歴は真逆で、『龍驤』は事故(第四艦隊事件)を起こしながらも改良や燃料や格納庫の一部使用制限等の条件付きで現在も第一線で運用されているのに対し、『レンジャー』は基本的に練習艦として後方勤務(此の点は『鳳翔』に似ている)に着いていた。

 此にはある物はしっかり使う貧乏気質の日本に対してアメリカは性能に難がある物を無理して使わずに早く新しいのを作って使う金持ち気質から来ていた(筈なのだが…)。

……で話を戻して…

 

「大西洋艦隊の面々には悪いが正規空母は暫く『レンジャー』だけで大丈夫か?」

 

「…最も重要なのはUボート対策ですので『ボーク』級以下の護衛空母群さえ揃えて貰えば当面は大丈夫です」

 

 ルーズベルトにインガソルは了渋々ではあったが承してくれた。

 まあ、インガソルの前任者であったキングも何か思う事があったのか何とも言えない表情をしていた。

 

「…しかし問題はどうやって日本の空母艦隊を太平洋に釘付けにするかです」

 

「その心配は御無用です。

ミニッツには日本を驚かす秘策を用意させています」

 

 不安を表した一人にキングが解消させたが、共同作戦を取るにも関わらず露骨に陸軍参謀総長マーシャルに嫌そうな目線を送った。

 最もマーシャルもやり返していたのでどっちもどっちであったが…

 

「まあ、海軍と陸軍には日本への極秘作戦に全力を尽くしてくれ」

 

 当然ながらルーズベルトにキングとマーシャルは二人揃って了解した。

 

「既に参加要員の訓練と機体の準備は終えています。

後は『ホーネット』がサンティエゴに入港して乗せるだけです」

 

「『エンタープライズ』以下の護衛艦隊も準備を終えています」

 

 マーシャルとキングにルーズベルトは満足そうに頷いた。

 

「…それはそうと、ポートモレスビーのは大丈夫なのか?

あそこを落されるとオーストラリアが危機的状況に陥るぞ」

 

「勿論、備えは万全です。

『ヨークタウン』と『サラトガ』を主力とした艦隊が控えています」

 

 キングにルーズベルトが了承した後も此の会議は長期間続いた。



 感想・御意見お待ちしています。


 次回は珊瑚海海戦に入ります。

 そして主役艦であるゼロが本格登場します。


 それと活動の所に上げた質問もお願いします。


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