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第6話 インド洋夜間砲撃戦・前編

――― インド洋 ―――

 

 

「レーダーに感あり!

一時の方角に大型艦四隻を中心とした艦隊を確認!」

 

「遂に来たか…」

 

 真夜中の時、日本の打撃艦隊を目指して前進していた東洋艦隊は遂に接触する事が出来た。

 

「更に追加報告、日本艦隊も我々を発見したのかコチラに針路を向けた模様です」

 

「見張り員達からはまだ報告は来ていないか?」

 

「…まだです。 今夜は曇っていて明かりが全く無い事もあるかもしれません」

 

「…ふむ……」

 

「まぁ此の事は日本側も同じ筈ですから」

 

 どうも『ウォースパイト』の司令部には何処か楽観的な空気が漂っていたが、間も無くそれが如何に甘い事かを直ぐに分かるが…

 

「…念の為に『ネルソン』と『リヴェンジ』に警戒するように伝えたまえ」

 

 ソマービルの指示は直ぐに『ウォースパイト』の先頭を行く二隻に伝えられた。

 因みに現在、東洋艦隊は『ネルソン』、『リヴェンジ』、『ウォースパイト』の順にした単縦陣を構成していた。

 勿論、此の陣形は世界七大戦艦の一隻であり、40cm砲九門全てを艦首に前向きに配置している『ネルソン』を最大限に生かそうとするソマービルの考えからであった。

 そしてソマービルは参謀達に向いて…

 

「確認するが我々が20ノットなのに反して日本艦隊の主力の『コンゴウ』級は30ノットの高速を誇っている。

故に確実に速度で翻弄される筈だが、我々は“肉を切らせて骨を絶つ”の言葉通りのやり方でいくぞ!」

 

 ソマービルの言葉に参謀達は一斉に「了解!」と力強く返事をした直後…

 

「見張り員が日本艦隊を確認しました!

戦艦四隻を先頭にした単縦陣で向って来ています!」

 

 更に…

 

「対空レーダーに感!

日本艦隊から発進したと思われる航空機が当艦隊に接近しています!」

 

「…数と此の時間帯から攻撃機ではありませんね。

間違いなく敵の着弾観測を目的とした偵察機でしょう」

 

 参謀達の中から「くっ!」と小声が漏れていた。

 

「…『フォーミダブル』を引かせたのは失敗だったか」

 

「否、『フォーミダブル』の状態では逆に足手纏いになるだけだ」

 

「…しかし……コチラも着弾観測機を出すべきだったか…」

 

 まぁ、ほぼ人力でしか駄目であった当時の技術力を考えれば元々難易度が高い海への離着水をしかも夜間に行えと言うのも酷であるが…

 

「まあ良い、日本人は余程腕が立つのかそれとも馬鹿なのかは分からんがな」

 

「いえ、後者でしょう」

 

 参謀達に苦笑とも取れる笑いが漏れていた。

 

 そして…

 

「見張り員が日本艦隊を確認しました。

およそ25ノットで接近しています」

 

「…25ノット?」

 

「その報告に間違いはないのだな?」

 

 報告に間違いがない事を確認して違和感を感じていた。

 

「妙ですね」

 

「砲撃優先の速度にしているにしては速過ぎる」

 

「気になる事だが敵艦隊の速度は置いといて、敵の戦艦部隊はどう動くと思う?」

 

「…火力と装甲で劣る以上同航戦が考えられませんから、やはり反航戦からのヒットアンドアウェーでいくと思われます」

 

「…日本の御得意のT字戦法を…トウゴウターンは使わないと思うのか?」

 

「はい、元々縦長横短より横長縦短の方が被弾しやすいですし、それに我々に『ネルソン』がいる事を知っている筈ですから」


 参謀の意見にソマービルは同感の意を示して頷いた。

 

「…それで我々はどうすれば良いのか?」

 

「水雷戦隊に警戒しつつ臨機応変に対処すべきです」

 

 ソマービルは満足に頷いた。

 

「チョット遠いと思うが『ネルソン』には距離一万八千で砲撃を開始せよと伝えろ。

当艦と『リヴェンジ』は一万六千で開始する」

 

 東洋艦隊の方針は決まり、後はその時を待つだけになった。

 そして間も無く二万に入ろうとしていた時…

 

「日本機が照明弾を投下しました!」

 

「…何!?」

 

 照明弾投下……勿論それは日本側が間も無く砲撃を開始しようとする前触れであった。

 

「それとその直前に日本艦隊が右に転蛇した模様です!」

 

「まさかトウゴウターンをやるつもりか!?」

 

 トウゴウターン…かつて日本海海戦で名前の由来にもなった東郷兵八郎率いる日本連合艦隊が帝政ロシアのバルチック艦隊から伝説的な完全勝利を得た戦法を予想を裏切ってやろうとしていた。

 

「馬鹿な! 幾ら何でも早過ぎる!」

 

「それに一隻多く、速度こそあるが元が巡洋戦艦である『コンゴウ』級では大口径を持つ我々にまともに撃ち合う事は無謀だぞ!」

 

…此のタイミングでやった意味迄は見抜けないでいたが間も無く分かる事となる。

 更に予測してはいたが、悪い事に…

 

「日本艦隊から一部が分離して当艦隊に高速で接近を開始しました!

艦影から巡洋艦隊と水雷戦隊と思われます」

 

「…司令官……」

 

「…巡洋艦と駆逐艦を向かわせて敵の水雷戦隊を迎撃させろ!

 

「我々はどうします?」

 

「我々がやる事に変わりはない!

このまま予定通りに行くぞ!」

 

 ソマービルの檄に参謀達が気を持ち直しながら「了解!」と力強く返事をしたが…

 

「…日本艦が発砲しました!」

 

「何だと!!?」

 

「『ネルソン』より早く撃ったのか!?」

 

「はい……たった今『ネルソン』も砲撃を開始しました」

 

 最後のは完全に蛇足であった。

 

「…見張り員から報告です!

『ネルソン』の近距離に着弾しました!

明らかに36cm砲の物ではないそうです!」

 

 更に…

 

「『フォーミダブル』より緊急電が入りました!

日本艦隊から砲撃を受けているそうです!」

 

「何だと!!?」

 

 此の二つの通信文に参謀達にパニックが起こった。

 

「否、それよりも『フォーミダブル』は大丈夫なのか!?」

 

「はい、通信では『フォーミダブル』は複数の『コンゴウ』級を中心とした日本艦隊から砲撃を受けていますが、護衛部隊に多大な損害が出ていますが、『フォーミダブル』は速度が回復した事もあって無事だそうです」

 

「…複数の『コンゴウ』級だと!?」

 

 参謀達は『フォーミダブル』が無事である事より攻撃している日本艦隊に『金剛』級が含まれている事に反応した。

 

「馬鹿な! ナグモ艦隊には『コンゴウ』級四隻しかいなかった筈だ!」

 

「だが我々を砲撃しているのは何なんだ!?」

 

「『フォーミダブル』を撃破した一部、或いは航空艦隊の別隊が我々の所に来たのでは?」

 

「否、来るにしては早すぎる。

しかも戦艦の数が合わない」

 

 参謀達は自分達を攻撃する艦隊の正体を見抜けないでいたが…

 

「…そう言う事か。

はぁかったなーージャァーープ!!!」

 

…只一人、全てを悟ったソマービルは普段の紳士降りを振り捨てて何所かの仮面の男に謀られた四男坊の様に叫んだ。

 

「見張り所から報告が入りました。

敵戦艦群はいずれも『コンゴウ』級ではありません!

一・二番は『ナガト』級!!、三・四番は『フソウ』級です!!」

 

 此の報告に参謀達が騒ぎだした。

 

「ナ、『ナガト』級に『フソウ』級だと!!?」

 

「馬鹿な!? 日本の主力戦艦群ではないか!

主力戦艦群は瀬戸内海にいる筈じゃなかったのか!!?」

 

 当然と言えば当然だが、此の場にいる者達は自分達を攻撃しているのが『長門』級と『扶桑』級の四隻……予測されていた『金剛』級より強力な戦艦群であった事に驚きと戸惑いを表していた。

 ましてや『長門』級は『ネルソン』と同じ七大戦艦の一角……それも最高艦が二隻揃って現れたのだから尚更であった。

 そして此の事をいち早く察知したソマービルへ目線が集まった。

 

「…司令官……」

 

「我々は嵌められたのだ」

 

 ソマービルの心情を表すかの様に『長門』級の砲撃の着弾音が衝撃波と共に響いた。

 

「…ソマービル司令官、『ネルソン』と『リヴェンジ』から指令を求められています。

指示をお願いします」

 

 かなり酷ではあったが、戦闘はそれでも尚続いていた。

 

「…『ネルソン』と『リヴェンジ』に指令。

予定を変更して砲撃をしつつ、より日本艦隊に接近する」

 

「砲撃目標は?」

 

「『ネルソン』は敵一番艦を砲撃、『リヴェンジ』と当艦は夫々敵三番、四番艦を砲撃する」

 

 参謀達はネルソンの言葉を聞いて一斉に振り向いた。

 

「否、あの…しかし…」

 

「復唱はどうした!!」

 

 参謀達に思わずソマービルが怒鳴った。

 

「司令官、御言葉ですが敵二番艦を…『ナガト』級の内一隻を放置するのは危険があります」

 

「だからと言って『リヴェンジ』に『ナガト』級と殴り合わせろと言うのか?」

 

「ですが当艦と『リヴェンジ』が共同で当たれば何とかなる筈です」

 

「だがその場合、『フソウ』級二隻をフリーハンドになってしまう。

幸いな事に『ナガト』は二隻掛かりで『ネルソン』を砲撃している上に『フソウ』級相手なら当艦と『リヴェンジ』でも単艦でも撃破出来る」

 

 嫌な事にソマービルのやり方が一番の最善策であると分かったのか、参謀達は唇を噛みながら黙った。

 

「糞! 『ロドネー』と『ラミリーズ』が沈められていなければ…」

 

「そうだ、二隻共とは言わないが『ロドネー』と『ラミリーズ』のどちらかがいれば…」

 

「否、もしかしたら日本の連中は此の現状を狙っていたのかもしれん」

 

 参謀の中で昼間の航行攻撃で『ロドネー』と『ラミリーズ』が沈んだ事を悔やむ者達がいた。

 最も彼等の予測に反して戦艦二隻の撃沈は日本側の手違いで起こったのだが、結果的には現在の東洋艦隊の負債となっていた。

 

「……詰まり当艦と『リヴェンジ』は早期に『フソウ』級を撃破後に『ナガト』級を砲撃するのですね」

 

「そうだ。 『ネルソン』は最終的に沈む可能性が高いが最低でも『ナガト』級の一隻は撃破してくれる筈だ」

 

 完全に開き直ったソマービルは気を取り直して参謀達に振り向いた。

 

「…良いか! 予測に反して日本の主力戦艦群が相手であったが、誇りある大英帝国海軍軍人として全力を持って迎え撃つぞ!」

 

 部下達は一斉に「了解!」と力強く返事をして夫々に動き出したが、東洋艦隊にとって苦しい戦いが始まろうとしていた。


 

 

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