第5話 セイロン島沖海戦
――― 東洋艦隊 ―――
東洋艦隊がいる海域では防空戦闘機隊を振り切って攻撃を仕掛ける日本機の大軍とそれを撃墜しようと対空砲火を撃ちまくっているイギリス艦艇によって壮絶な戦いが起こっていた。
そして先行して九九式艦上爆撃機…通称九九艦爆の編隊はその大半は艦隊中央にいる『インドミタブル』と『フォーミダブル』の二空母に向っていた。
「ヴァール(九九艦爆)二十機、『インドミタブル』と『フォーミダブル』に向けて急降下を開始!」
「回避運動! 取り舵一杯!」
「対空砲、撃ち落とせ!!」
勿論、二空母の乗組員達だけでなく護衛艦群もまだ九七艦功が艦隊外周にいる事もあって持てる火力を総動員して迎え撃っていた。
だが…
「…クソッタレ!
当たねえ!!」
「ジャップめ!!
むちゃくちゃな動きをしやがって!」
取り敢えず視点を置いた『インドミタブル』の対空砲の操作員の毒づき通り、九九艦爆の動き……侵入角60度で300m迄接近しているのに対応仕切れないでいた。
まぁ此の動きがアメリカの艦爆ドーントレスが侵入角45度で600m迄接近の数値と比べれば凄いの一言しかないが…
だがそれでもイギリス側は死神の渾名を持つドイツの爆撃機群との戦闘経験を生かして十機中三機を撃墜、更に二機の急降下爆撃を回避していたが…
「爆弾投下!!」
「…命中する、伏せろ!!」
…五発が飛行甲板に命中して派手に炸裂していた。
尚、姉艦の『フォーミダブル』は四発命中していた。
だがイギリスが誇る世界初の装甲空母である二隻のイラストリアス級空母は一部の対空砲と乗組員達を薙払ったが甲板その物は爆弾を跳ね返していた。
その性か、投下し終えて誇らしさを出していた九九艦爆群は比較的無事な二空母を確認して何処か悔しさを発していた。
因みに九九艦爆の搭載爆弾が250kgであるのに対してイラストリアス級は設計上450kg爆弾迄は耐えれる事が出来た……此では九九艦爆ではどうする事も出来なかった。
だが日本側も此の事に直ぐに対応して他の艦艇へ標的を変更した上に今度は右舷から九七艦功の四編隊・計二十機が夫々に分かれて迫ってきていた。
勿論、二空母も直ぐに回避運動を始めつつ、攻撃目標を変更したのだが…
「…は…速い!」
「ケイト(九七艦功)め、凄い低空で飛んでやがる!」
九九艦爆同様に九七艦功の高機動に翻弄されて中々撃ち落とせないでいた。
実は此にはドイツやイタリアが雷撃機を所有していない為、雷撃機に対する経験値が無かったのだ。
因みにドイツ空軍を統べるヘルマン・ゲーリングは此の現状に加えてマレー沖海戦での日本の戦果の影響で雷撃に強い憧れを抱いており、躍起になって雷撃機の開発に梃入れをしていた。
話を戻して、更に悪い事にイギリス将兵達は自分達の主力機である最早化石の単語が着きそうな旧式機である複羽のフェアリー・ソードフィッシュ攻撃機を基準にしていた為もあった。
尚、日本も『龍驤』や練習艦として若手空母搭乗員達の育成に勤しんでいる小型空母『鳳翔』(世界初の純粋な空母)に複羽の旧式機である九六艦功を少量ではあるが搭載していたが最近は流石に此を最前線に投入する気など無かった。
しかも『フォーミダブル』は…
「ポンポン砲が六基とも止まっているぞ!
何があった!?」
「故障です! さっきの被弾の衝撃で動かなくなりました!」
此の船の艦長が思わず絶句していたがポンポン砲の渾名を持つ第一次大戦から改良を重ねて使われている歴史ある40cm八連装機銃…壊れやすい・射程が短い・弾が真直ぐ飛ばない(日本風に言えばションベン弾)の三拍子そろった欠陥機銃が一斉に壊れてしまったのだ。
何せ此の機銃はマレー沖海戦で沈んだ戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』に載せていた物の一つが十二回も故障すると言う素晴らしい功績を残していたのだ。
まぁ、実際に現場の評価が低い此の機銃を強情に使い続けてる事にイギリス人の頑固ぶりが垣間見得ているが…
只、当然の事ながら九七艦功の搭乗員達は逆に千歳一遇の好機と捕らえていた。
勿論、イギリス側も回避運動を続けるだけでなくポンポン砲以外の11.7cm高角砲や20mm機銃の対空火器で何とか一個編隊の内二機を撃墜して投下された魚雷を回避したのだが、先頭のを半ば犠牲にした後続がスキを付く形で接近して……一本を回避したが立て続けて四発も被雷して速度を落としながら右に傾き始めていたが乗組員達の必死の作業もあって『フォーミダブル』は吃水線がかなり沈んだが何とか復旧する事に成功しようとしていた。
…だが……
「あぁ…『インドミタブル』が…」
魚雷が五発命中した妹艦『インドミタブル』は大傾斜を……格納庫の開放部分から艦載機が乗組員諸共滑り落ちる程に傾いている『インドミタブル』は助かりそうになかった。
実はイラストリアス級四番艦『インドミタブル』は姉艦三隻が搭載数が36機と少な過ぎた反省点から搭載機数を倍近くの72機までに増やした代わりに側壁装甲が114mmから38mmに激減した為に『フォーミダブル』より雷撃の被害を悪化させていたのだ。
「…アレではもう駄目だな…」
「『インドミタブル』に総員退艦令が発せられました。
護衛駆逐艦群が乗組員の救助活動を始めようとしています」
「報告します!
速度が半減しましたが当艦は間も無く復旧します」
「それは良かった」
「しかし何故日本は当艦に追撃しないのでしょうか?」
実は『フォーミダブル』が助かった最大の要因は先の雷撃以降全く攻撃機が向って来なかったからなのだ。
と言うのも先の艦爆隊に出された攻撃目標の変更命令が間違って伝わった艦功隊まで目標を切り替えてしまったからだ。
勿論、此の事に此の攻撃隊を統べて『インドミタブル』に魚雷を叩き込んだ淵田美津雄中佐が終局直接に気付いて慌てて修正命令を出したのだが完全に手遅れであった。
で、結果的に目標を変更した攻撃隊は何所に行っていたかと言うと『ウォースパイト』以下の五隻の戦艦群……特に『ネルソン』と『ロドネー』に向っていた。
しかも『ネルソン』と『ロドネー』は二空母よりかなり叩かれていた。
と言うのも海軍休日に竣工したネルソン級は艦首方向に主砲三基全てを置いて世界を驚かせたその独特な構造が原因で機銃しかない前半分の対空砲火が薄く、速度と操舵性がかなり悪く……後者は歴代艦長が口を揃えて『ネルソン』ベースの艦艇は作るなと言っている程……コレ等が今、彼女達を苦しめていたのだ。
しかも搭載している対空砲のいずれも余り良い物でもなかった。
先ずポンポン砲は語るも無残で空中機雷・通称UPは先述の通りに設定が複羽機のが元だからあさっての方向に飛んでいて、最後には13cm両用砲は重量と製作予算をけちった性で旋回性が悪く重い砲弾を手動装填していた為に装填手が疲れて発射速度がドンドン落ちていた。
まぁ…後にボフォーフス40mm四連装機銃に載せ替えられる前二つは兎も角、両用砲……副砲と高角砲を兼ね備えた砲に関しては元々中途半端になりやすくより小口径の物を持っている米仏も自身のに余り満足しておらずフランスに関しては結局は副砲を復活させていた。
話を戻して、そんな対空砲を両艦の乗組員達は必死に操って多少の被弾があるものの日本機を撃退していた。
だが『ロドネー』が片翼を吹き飛ばされた九九艦爆が最後の意地で艦橋に体当たりをして跡形も無く消し飛ばしてしまった。
まぁ『ロドネー』何処かイギリス艦艇の司令部はライン演習で艦橋を損失して戦闘不能に陥った戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』からの反省から基本的にCICにいる為、致命的にはならなかったのだが、此の現状を目撃した攻撃隊の面々が『ロドネー』への集中攻撃を開始した。
…で結果は爆弾8発と魚雷9本を叩き込まれた『ロドネー』は攻撃終了時に沈没してしまった。
更に6本も被雷した『ラミリーズ』に加えて駆逐艦が5隻沈没した時点で日本の攻撃隊は引き上げていった。
そしてそれ等の損害報告を昨年に近代換装を受けたお陰で爆弾二発被弾だけですんだ戦艦『ウォースパイト』にて取り敢えず艦橋に再び移ったソマービルは渋い顔付きで聞いていた。
「…まさか此処までとは……」
「日本航空艦隊侮り難しですね…」
「否、やはり時代は航空機のものなのだな」
「しかし呑気な事は言っておれません」
「…もうすぐ日が沈むのだから航空攻撃はもう無い筈だろ?」
参謀の一人が指摘した通り、確かに太陽が赤く染まりながら水平線の彼方へ沈もうとしていた。
「いえ、それが航空攻撃の最中で報告出来ずにいましたが先程友軍潜水艦からコチラに高速で接近している日本の戦艦部隊を発見したそうです。
通信と経過時間から逆算したら…」
報告を聞いたソマービル達に益々嫌な空気が濃さを増して漂っていた。
「…不味いですね。
位置が知られている上に此の距離では『コンゴウ』級からは逃れられません」
「…司令、どうします?」
参謀達に求められたソマービルは少し考え…
「…『フォーミダブル』を始めとした損傷艦艇は直ちに後退させる。
残りの艦は日本艦隊に向けて前進する」
「…迎え撃つのですね」
少し戸惑いを感じさせていたが参謀達はどうやらほぼこうなる事を予測していたそうであった。
「『ロドネー』と『ラミリーズ』を失って数的には不利だが『コンゴウ』級ならばまだ可能性はある。
ましてや接触が夜間になるのだから上手く立ち回れば十分勝目はある」
「分かりました。
では直ちに全艦に通信します」
こうして東洋艦隊は夜戦の準備を始めたのだがそれが誤りであった事をまだ誰も知らない…
感想・御意見お待ちしています。