第4話 日英激突
――― 戦艦『比叡』 ―――
此の時、セイロン島への空襲から始まった第一航空艦隊の攻撃はイギリス空母『ハーミーズ』を撃沈後は肝心の東洋艦隊そのものを発見出来なかったが既に戦果大と判断して打止めにして作戦を終了しようとしたが突然入った東洋艦隊発見の一報にチョットした騒ぎが起こっていた。
「…その東洋艦隊発見の航空無電に間違いはないのだな!」
「はい! 先程から当艦隊南方の海域に戦艦五、空母二を中心とした艦隊発見の一報が…」
「そういう意味ではない!!
それは何処の誰が出しているのだ!」
まぁ…自分達の手が全く届いていない所からの一報に南雲達が驚き疑っているのも無理はなかった……と言うより普通は当たり前であった。
まぁ…だからこそ、一つの未来でフィリピン沖の海戦で此の様な通信を疑いもせずに馬鹿正直に信じて攻撃目標の手前で反転した艦隊司令長官が愚者と罵られるのは扱く当然の事であったが……因みにその海戦が此の物語でも行われる可能性はまだ作者にも分かりません(オイ!)
尚、その艦隊司令長官は現在、第一南遣艦隊に組み込まれている巡洋艦『熊野』に乗り込んでおり、現時点で盛大にくしゃみを二回連続でしていたとか…
「それでその一報の発信者は誰か分からないのか!?
小沢(小沢治三郎中将・第一南遣艦隊司令長官)の所の『龍驤』のか!?」
罪も無い伝令に思わず怒鳴っている南雲であったが言っている自分自身で空母『龍驤』を含んだ第一南遣艦隊は全く違う海域で活動中でコチラに手を回す余裕など無いと分かっていた為、それは有り得ないと思っていた。
「い…いえ……一様分かっています。
只、ゼロとしか名乗って…」
「…ゼロだと?」
”ゼロ”の単語にまた別の意味で戸惑いの声が多数上がった。
「ゼロ……また奴か…」
「しかしゼロは真珠湾での功績がありますよ」
参謀の言葉を聞く迄も無く既に思い悩んでいた。
実の処、南雲達は真珠湾攻撃の時に確かにゼロからの報告を信じて第三次攻撃隊を出したのだが、あの時は揉めに揉めて出したのだった。
だが実際はその通りにして良かった上、何故か『レキシントン』撃沈は自分達の戦果になっていたのだ。
しかも日本本土に帰還後、此の事を連合艦隊司令長官山本五十六に報告すると同時に問詰めたが何故か笑ってはぐらかしていたのだった。
「だが今回も上手くいくとは限りません」
「しかし此の一報が本当で我々が無視して帰還したら臆病者の烙印を押されますよ」
「そうです。 しかも此は別の所にも届いている筈ですし……此処は偵察機を出しては?」
「ですが通信の海域はかなり距離がある上に今の時間帯では偵察機を出して確認を取った後に攻撃隊を出しすとなると…」
「…一度だけになるが今直ぐに出せば二度は出来るのだな」
「はい…」
残念ながら決断に至る材料が少な過ぎて手詰まりになった。
「長官、此処は山口提督に一存なされてはどうでしょうか?」
「……山口にか?」
「はい」
「…確かに事実上航空戦隊を統べている山口提督なら的確な意見を述べられると思われます」
なんとも情けない事だが代案が無かった為、採用となった。
早速、旗艦『比叡』から山口が座乗している空母『赤城』に発光信号が送られた。
因みに通常なら何かを意見具申をする筈の山口は搭乗艦の搭載している通信アンテナの関係……『赤城』のは『比叡』の物より小型の物の性で通信が届かなかったのか今の今迄何故か大人しくしていた。
…で暫くして『赤城』からの返信は…
「…搭乗員の疲労も考えて此処は偵察機を通信の海域に向かわせて確認を取れ次第、攻撃隊を発進させるべき…だそうです」
「…珍しく慎重だな」
山口の意見に南雲達は苦笑しながら同意した。
「恐らく次の作戦にも配慮してでしょう」
そして山口の意見通りに直ぐに『赤城』から九七式艦上攻撃機…通称九七艦攻が偵察の為に発進して………発信直後に撃墜されたが通信に間違いはない事が確認されて直ちに攻撃隊が手空きの空母乗組員達が自身の帽子を振り……日本海軍伝統の”帽触れ”に見送られて飛び立ち始めた。
そして攻撃隊を見送った後…
「…行きましたね。
いつもながら惚れ惚れする見事な飛び方をする海鷲達ですね」
「ああ、そうだ。
だがそんな海鷲達でも一撃だけでは殲滅など出来ないだろう」
「……やはり仕掛けますか?」
「ああ、こんな時に備えてGF(連合艦隊司令官)は儂に『比叡』に乗れと命じた事出しな。
幸い今から行って上手ければ丁度夜襲になるし、しかも今回は金剛級戦艦が四隻全ているしな」
南雲は笑みを浮かべながら指示を出し始めた。
その後、第一航空艦隊は二つに分離……『赤城』以下の五隻の空母を中心として此の海域に止まる一派とは別に『比叡』以下の『金剛』級戦艦を中心とした完全な水上打撃部隊がしかも南雲の直接指揮で東洋艦隊を目指して最大速度で疾走し始めた。
――― 戦艦『ウォースパイト』 ―――
「レーダー室から日本の航空隊と思われる大編隊を感知したと報告が入りました!
間も無く接触します!」
「…遂に来たか」
何とか全ての戦闘機を発進させて、更に艦隊を対空戦に適した輪形陣に空母『インドミタブル』と『フォーミダブル』を中心にして展開出来た事もあってかソマービルは日本の攻撃隊の接近の報告に落ち着いていた。
「全艦に対空警報を鳴らしたか?」
「既に!」
「航空管制も問題ありません!」
「……問題があるのは戦闘機隊の燃料か…」
「はい、しかし日本艦隊は何を考えて二機目の偵察機を放ったのでしょうね?」
日本側の事情など知る訳がないソマービル達は偵察機との接触後、直ぐに戦闘機隊を発進させたのだが二機目の偵察機の到来に加えて、かなりの時間が掛かった攻撃隊の到来に首を傾げていたのだ。
此の為、航続距離が極めて短いイギリス戦闘機の燃料の残りを気にしていたのだ……そうイギリス戦闘機は…
とはいえ青天の霹靂にならずに間も無く無事(?)に戦闘が始まろうとしていた事には間違いはなかった。
「間も無く戦闘機隊が接触します!」
そして二年前迄繰り広げられたドイツによるイギリス本土空襲……通称・バトルオブブリテンで培われた航空管制により戦闘機隊の日本攻撃隊への急降下からの一撃離脱攻撃から戦いが……セイロン島沖海戦が始まった!
そして此の攻撃で見事に日本機を多数撃墜して初手をイギリスに上がろうとしていた。
だが日本側も直ぐに対応してそのまま激しい空中戦が行われていた。
「良し! 上手くいっているな」
「F4Fマートレットも伊達ではないと言う事ですね」
実は参謀の一人が”言ったマートレットは”F4F”の単語通りにアメリカの戦闘機ワイルドキャットの輸出版であった。
但し此の機体は本来フランスに売り渡す予定であったのだが、そのフランスがドイツに降伏してしまった為に宙ぶらりんになっていたのを急遽イギリスに貰い手が変更なったのだ。
最も経緯はともあれ、此等は艦上戦闘機が不足している上に旧式化著しいイギリスには慈雨に等しいものであった。
だが初手を取られて後手に回るかと思われた日本の戦闘機隊であったが直ぐに立て直していた。
元々一つの遠い未来での某大佐の「当たらなければどうと言う事などない」の言葉を具現化した様な超攻撃特化の零戦にその第二次大戦初期最強の冠を頂く戦闘機を操るにふさわしい凄腕の戦闘機乗り達が早々に遅れを取る事など有り得なかった……まだ豊富な数がいた現時点では…
オマケにマートレットが『インドミタブル』の搭載量の四十機強でしかなく、それに加えて既に打ち落とされ始めている旧式戦闘機のシーハリケーンを含めた防空隊の数倍は存在している零戦隊に飲み込まれかけていた。
「…正規空母が五隻とは言え、何て数だ」
「しかも数だけではない。
物凄い器量を持ち合わせているぞ」
「流石は奇襲攻撃とは言えアメリカの真珠湾を焼き付くした世界最強の空母艦隊の者達だと言うべきか…」
「それに日本のジーク(零戦のコードネーム)もかなりの性能を持っている事もあります。
下手をすると空軍の主力戦闘機であるスピットファイアに匹敵するものを…」
味方の戦闘機隊が後手に回り始めている光景にソマービル達は悔しそうに見つめるしかなかった。
勿論、戦闘機隊何処か航空管制の皆さんも頑張っているのだが…
だが彼等の奮闘も空しく肝心の日本の攻撃隊は攻撃体制に入ろうと艦攻は高度を下げて、艦爆は逆に高度を上げていた。
「…全艦対空砲火を開け!」
当然、その動きを双眼鏡越しに見ていたソマービルは直ぐに攻撃命令を下し、直ぐさま東洋艦隊の格艦艇は核火山の様に激しい砲撃を繰り出し始めた。
本大戦唯一の日英間の直接艦隊決戦……かつて日露戦争から第一世界大戦迄の同盟国同士であった日本とイギリスの師弟対決は本格的になろうとしていた。
――― インド洋・某海域 ―――
「艦隊らしきものを探知しただと…」
東洋艦隊が日本の攻撃隊と接触するのとほぼ同時刻、警戒をしていたイギリスのとある潜水艦が潜水航行中に音響探知機越しに近い距離に何かが存在している事を察していた。
「はい、距離がある為、詳細な数は分かりませんがそれでも大型艦が少なくとも複数確認出来ます」
「…副長どう思う?」
「日本の艦隊でしょうね」
まぁ…副長に聞くまでもなく此の海域に友軍艦船がいる訳が無いと自覚していたのだから消去法から日本の艦隊である可能性が高い事を此の船の艦長は理解していた。
「…それでその艦隊は?」
「はい南西に進んでいますので……」
簡単に言えば此の潜水艦と未確認艦隊はほぼ”イ”の字の中点を目指す様に夫々に進行していた。
そして両者は間も無く一時的に目視可能距離(と言っても潜水艦の一方的だか)に入ろうとしていた。
「…潜望鏡上げろ」
そして潜望鏡の先には…
「…仏塔艦橋……日本の戦艦四隻も伴った水上打撃艦隊だ」
艦長の言葉に艦橋にいる乗組員達は「おぉ…」と小声が漏れていた。
因みに各国の艦艇の艦橋…特に戦艦のは国々でかなり形状が違う為、知識と資料さえあれば何所の国が製造元なのかを見分ける事が出来た。
「雷撃出来そうですか?」
「駄目だな。
艦種すら見分けられない程、距離が有り過ぎる。
それにかなり速い……20…否、25ノットは少なくとも出しているな」
オマケに遠ざかろうとしているのだから位置だけは絶好であったから残念極まりなかった。
「進路から見て東洋艦隊を目指していますね。
通信はどうします?」
「敵艦隊が過ぎてから勿論行う」
実は此の時、此の船がもっと詳細に知っていればセイロン島沖海戦は違った形になっていたと指摘する後世の戦史研究者が多数いた。
感想・御意見お待ちしています。
戦闘が次回に持ち越し……俺って屁理屈…