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第3話 イギリス東洋艦隊の憂鬱

 開戦と同時にアメリカ太平洋艦隊とその停泊地の真珠湾に壊滅的打撃を与える事に成功した日本軍……特に連合艦隊はその後もウェーキ島での駆逐艦艦隊の全滅等などの蹴躓きが多少あったものの短期間で東南アジアの大半を占領下に置く事に成功していた。

 そしてその中でも最功労艦隊と言っても過大でない南雲提督率いる第一航空艦隊はインド洋に姿を表わしていた。






――― 戦艦『ウォースパイト』 ―――



 南雲艦隊がインド南東に存在するセイロン島に攻撃を行っていた時、真珠湾のアメリカ太平洋艦隊とは違って事前に情報を得て辛くも難を逃れたイギリス東洋艦隊はインド洋の南域に存在していた。

 そして母港を襲撃した不届きな輩に仇討ちを試みようと……しようとしていなかった…

 しかも此の直前に分離行動をとっていた巡洋艦『コーンウォール』と『ドーセットシャー』に空母『ハーミーズ』が撃沈したとの一報もあって、艦隊旗艦『ウォースパイト』の司令部には何処か思い空気が張り詰めていた。


「…『エンタープライズ』の救助状況は上手くいっているのか?」


 注:此の『エンタープライズ』はアメリカ空母とは同名の別艦


「日本艦隊が『エンタープライズ』に気付いていないのか同艦からは『コーンウォール』と『ドーセットシャー』の乗組員の回収を終えて間も無く合流を目指せると報告が届いています。

また『ハーミーズ』の救助も順調に進んでいると護衛駆逐艦隊からも報告が届いています」


「そうか、それはなによりだ」


 撃沈された艦船の乗組員達の救助活動が順調に進んでいる事に艦隊司令官ソマービル提督は満足に頷いていた。


「しかし失礼ですが、微量とは言え日本艦隊と戦力に差が開きますね」


「だが現状では我々は日本艦隊へ攻撃は出来ない…」


 ソマービルの意見に参謀達が同意を示すと同時に失望感を出している現状には幾つかの理由があったからだ。

 一つは彼等・東洋艦隊の面々は日本艦隊の襲来こそ察知出来た(と言ってもその前迄、誤報に振り回されていた)のだが投入されている具体的な規模迄は察する事が出来ず、取り敢えずは南雲率いる空母艦隊は発見出来たがそれ以外の有無を確認出来なかったからだ。

 只、インド洋各域で通商破壊作戦を実施している第一南遣艦隊(馬来艦隊)が断片的に入っている上に先刻友軍潜水艦がマラッカ海峡を通過した戦艦『伊勢』を初めとした護衛に守られた大輸送艦隊を発見したとの一報が入っていた事が彼等をより混乱させていたのだ。

 実は前者は兎も角、後者はかなりの曲者で此の艦隊の詳細を知ったら何がなんでも殲滅を目指していた筈だろうが…

 まぁ、既に南雲艦隊が自分達より遥かに強大な戦力を有している

 只、問題なのは二点目……イギリス本国から交戦禁止命令を受けていたからであった。

 と言うのも此の第二次大戦下でイギリスは当面の的をドイツとイタリアにしており、本国よりかなり遠い日本は取り敢えずはアメリカに頑張って貰おうとしていたからだ。

 此の為、ソマービルは艦隊を極力温存してほしいと命令を受けて消極的な動きをとっていた。

 まぁ此には先のマレー沖海戦で『プリンス・オブ・ウェールズ』(しかも新造戦艦)と『レパルス』の二隻を一挙に損失した上、最近は引き籠りがちとは言え未だに強大な艦隊戦力を有するドイツとイタリアに備える必要があるのだから仕方がないとしかない。

 しかもイギリスは大戦初期に致命的な戦略ミス……同盟国フランスの降伏直後に地中海のフランス艦隊殲滅戦を行うと同時に摂取を企んだカタパルト作戦を実施したが此の作戦がドイツに漏洩して精強なドイツ空軍ルフトバッフェに加えてドイツの強い要望で嫌々出撃したイタリア艦隊(フランス海軍本来の宿敵)から一様の協力を得たフランス海艦隊にイギリスの討伐艦隊が戦艦『レゾリューション』を失うなどの被害を受けて返り討ちにあってしまったのだ。

 しかも後にメルセルケビル海戦と名付けられた此の出来事が原因で当初は中立を表明していたフランス海軍がドイツの巧みな宣伝もあってイギリスを初めとした連合国側の自由フランス軍ではなく、ドイツを初めとした枢軸国側のヴィジー・フランスに従う事を一斉に表明し、数ヶ月前に勃発したギリシャ沖でのフランスの此また嫌々出した増援を受けたイタリア艦隊との戦い…マタパン岬沖海戦で戦艦『ヴァリアント』を失ってイタリア海軍に370年振りの勝利を与えられた上に北アフリカの戦いで追い詰めれてスエズ運河一体を死守している有様であった。

 しかもアフリカ沿岸部にいたフランス艦艇が続々とマダガスカル島に集結して彼等の後方に重圧を掛けていたのだった……イギリスは知らなかったが実際にはマダガスカルのフランス艦艇の殆どは燃料不足で半ば死に体になっていたが…

 しかも皮肉な事に此所までイギリスが追い込まれる事になったメルセルケビル海戦でのイギリス艦隊の司令官は此のソマービルであったのだ。

 以上の事から今の現状では彼等東洋艦隊は縦横無尽に暴れ周る日本艦隊を指を咥えて見ているしかなかったのだ。

 因みにドイツの同盟国である日本は統治下に置いた東南アジア各地で欧米人達を次々に抑留しているが、フランス人だけは日本に協力するという条件さえ飲んでいたら土地や資本を保障し、更には条件さえ整えば開戦前に占拠したインドシナ(後のベトナム)をヴィジー・フランスに返還すると表明していた……一様…

 只、此の性でか戦後数十年後にハリウッドで映画化される程のとあるSFの名作が史実と違って作られる事がなかったと言う……多分…


「…此の『ウォースパイト』を筆頭に戦艦五隻……しかも内二隻はイギリス最強の『ネルソン』級に加えて空母二隻を含んだ大艦隊を指揮しているのに戦わずに逃げ回っているとは……何とも情けない…」


 只、此の行動は”見敵必戦”を信条するイギリス王立艦隊ロイヤル・ネイビーの一翼である彼等にとっては不本意極まりなく、しかもメルセルケビル海戦の汚名返上と昨年に欧州最強のドイツ戦艦『ビスマルク』撃破の武功を上げた猛将である艦隊司令官ソマービルには尚更であった。

 現に出来れば日本艦隊と戦いたいと思い、艦首方向の海域を眺めているソマービルの背中には何処か哀愁が漂っていた。

 因みに海軍内でのメルセルケビル海戦の一件でのソマービルの対応は首相チャーチルの一存で特別に不問となっていた。


「ですがマダガスカルのフランス艦隊には新造戦艦『リシュリュー』の姿が確認されたとの報告が入っていますので恐らくフランス艦隊への対処が命令される筈です」


「そうです。 幸い日本艦隊は我々をまだ発見していませんので当艦隊は出来る限り被害を最小限にしなくてはいけません」


 ソマービルの心中を察している参謀達は必死に宥めていた。


「そうだな、我々は此の後に地中海への転身が控えているのだからな」


 どうやら参謀達の言葉にソマービルは少しは気を持ち直した様であった。


「しかしある意味残念ですね。

偵察機の報告ですと確認された日本艦隊は空母が五隻と強力ではありませんが上手い具合に砲撃戦に持ち込めれば36cm砲を八門装備した『コンゴウ』級が四隻だけと脆弱ですから勝てるかもしれませんでしたが」


「いえいえ、我々は38cm砲八門の『クイーンエリザベス』級当艦に同じ火力の『ロイヤル・サブリン』級(別名R級)の『リヴェンジ』と『ラミリーズ』そして世界七大戦艦ビッグセブン最強の40cmを九門装備の『ネルソン』と『ロドネー』の五隻ですから速度に翻弄されなければ圧倒出来る筈ですから」


「世の中そんなに甘くはないと言う事ですね」


 最後に全員で笑っていた司令部の面々であったが”口は災いの本”を知らない様で……当たり前と言えば当たり前であったがその事が…彼等にとってある意味、最悪の出来事が起ころうとしていた。

 そしてその事は艦橋に駆け込んで来た伝令から始まった。


「レーダー室から緊急報告です!

対空レーダーがコチラに接近する機体を確認したそうです!」


「何所から来ているのだ?」


「はい……」


 伝令の報告を聞いて参謀達が疑問を感じていた。


「妙だな。 確認された日本艦隊の予測位置とまるで方角が違うな」


 遅ればせながら実は先刻前にイギリス軍は何とか見つけ出した南雲艦隊に対して基地航空隊を向かわせたが空振りに終わった事を東洋艦隊に知らされたのだがその報告の海域の方角と接近している機体とはが全く違っていたのだ。

 勿論、友軍機の可能性も無かった。


「そういえば日本は確か正規空母六隻で一個艦隊を編成していた筈だったよな?」


「はい、言われて見れば報告の艦隊から一隻足りませんね」


「という事は空母一隻は別行動をとらせているのでしょうか?」


 彼等は答えを見出だせずにいた。

 実は彼等の推測は外れで南雲艦隊に一隻……空母『加賀』がいなかったのは彼女はパラオ沖で坐礁事故でを起こして艦底を損傷してその修理で日本本土に引き籠もっていたのだ。

 更に日本が他に戦力化している小型空母の二隻……『龍壤』は先述の南遣艦隊に編入されて別の海域におり、『瑞鳳』はフィリピンへの航空機の輸送任務中であった。

 そしてその内に接近中の機体……やはり日本機を(但し新型と思われる液冷のスマートな機体だった)確認したと見張り所から報告が届いた。

 そして遅れてその日本機が無線を発信したとの報告が届いた。


「…全艦に警報、日本の攻撃の襲来に備えさせろ!」


 念願が叶った(開き直った?)ソマービルの指示に参謀達は「了解!」と力強く返事をして慌ただしくて動き出した。











――― ????? ―――



「…見つけだせたな」


「はい、南雲さんにちゃんと届いている筈ですから直ぐに攻撃隊を発進させる筈です」


「我々はどうします?

我々も攻撃隊を出しますか?」


「否、出る必要が無いから今回はやめておこう」


「…分かりました」


「どうした、不満か?」


「いえ、そういう訳では…」



 感想・御意見お待ちしています。


 いよいよ次回から本格的な戦闘だ……どうなる事やら(何んで他人事?)

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