第1話 真珠湾奇襲攻撃
西暦1941年12月10日…此の日、六隻の正規空母を中心に編成された日本第一航空艦隊は隠密にハワイ沖に侵入、アメリカ太平洋艦隊に大打撃を与える事に成功させていた。
――― 戦艦『比叡』・艦橋 ―――
「そうか…これで米戦艦八隻全て撃破出来たんだな」
此の時、旗艦『比叡』では艦隊司令長官南雲忠一を始めとした首脳陣は第二次攻撃隊からの報告を受けて今後の行動方針を参謀達と話し合っていた。
「はい、此で太平洋艦隊が所有する戦艦全てを撃破出来ました」
「しかし長官、敵空母『エンタープライズ』と『レキシントン』が消息不明の上に敵の燃料タンクやドッグは手付かずのままです。
此処は第三次攻撃隊を出すべきかと思います」
「ふむ……」
積極策を取る様に進言する参謀達と違い、此の時の南雲は逆に消極的になっていた。
「だがな、その二空母の存在が気掛かりだ。
今下手に攻撃隊を出したら不意を突かれて損害を最悪の場合は沈没艦を出してしまう可能性があるぞ。
軍令部から”全艦無傷で帰せ”との言伝もあるしな」
南雲に同調する参謀が南雲の心情を代弁した。
「ですが、消息の分からない二空母は兎も角…先の設備二つを見逃したら敵に再建の機会を与えるかもしれません!
幸い敵の偵察機等に捕捉されていませんし何より『赤城』の山口司令からも攻撃隊発進の進言もありますので此処は出すべきです!」
残念ながら参謀達の意見が分かれた以上南雲の決断に委ねられた。
…だが南雲が自身の意見を口に出そうとしたその時…
「六時の方角より未確認機発見!
真っ直ぐコチラに向っています!」
――― 南雲機動艦隊・上空 ―――
未確認機の報告に艦隊上空にて警戒していた防空隊は当然ながら直ちに行動を開始していた。
そして空母『加賀』所属の植田彰二少尉は未確認機をいの一番に捕捉しようとしてた。
「……アイツか…っ!
早い!!」
植田が目撃した未確認機と思われるスマートな液冷航空機は彼の予想を超える速さで前方から迫っていた。
彼が見た処、接近する機体は攻撃隊に参加したと仲間達から聞いたP―40・ウォーホークの姿がまるで違う上、飛行速度がP―40何処か今や世界最強の座に着いたと言って良い此の零式艦上戦闘機(通称零戦)二一型をも越えていそうだった。
「…まあいい、速かろが遅かろうが落としてしまえばいいんだ」
次々に味方機が殺到していたが…実は先の仲間達が帰還後に敵機撃墜を自慢タラタラに話していた事に腹を立てていた事もあってか真っ先に突っ込んでいった。
だが…
「……何!!」
未確認機に登場するパイロットはかなりの腕前なのだろう植田の銃撃しながらの突貫を簡単に回避してしまった。
しかも…
「…友軍機だ」
慌てて無線機を取った植田の言葉通り未確認機には真紅の丸…詰まり日の丸が書かれていたのだった。
実は此の航空機は十三試艦爆…後の二式艦偵及び彗星艦爆だったのだ。
「…馬鹿な……今の我が軍に液冷機は一機も無かった筈じゃあ………ん?」
いつの間にか『加賀』の僚艦・空母『赤城』…本来なら此の第一航空艦隊の旗艦になる筈だったがとある参謀の意見で『比叡』に旗艦を取られた艦の近くを飛んでいたのだが、何故かその『赤城』の艦首に立っていた人影に目線がいった。
「…アレは……女性!?」
植田の言葉通り『赤城』の人物は漆黒の一種軍装を着付けた女性だったのだ……女人禁制の海軍の筈にも関わらず。
しかもその女性(何故か十三試艦爆に嬉しいそうに目線を送っていた)に『赤城』の乗組員達は気付いている気配が無かった。
「『赤城』の奴等、女が密航しているのに気付いていないのか……着艦令…ってあれ?」
だがその女性は植田が着艦令を示す信号弾に目線を向けた一瞬の内に影も形も消え失せていたのだった。
因みに先程の十三試艦爆は『比叡』に通信筒を投下して直ぐに何処かへと飛びさって行っていた。
そしてその通信筒には”発ゼロ…ハワイ南西の海域に接近中の空母『レキシントン』を発見。
現在、此の艦を攻撃中なり”と書かれた文書が入っていた。
――― ????? ―――
此の時、南雲艦隊の遥か南方の海域に空母が一隻、誰にも知られずに存在していた。
そして『比叡』に通信筒を投下した機体は此の空母から発進し、たった今戻ってきた処であった。
「オワフ島の十三試艦爆一号機より通信、南雲艦隊の第三次攻撃隊が到着した様です」
「どうやら南雲提督は二号機のを信じてくれた様だな」
此の艦の艦長を務める男性は報告を届けに来た副長と共に満足そうに頷いた。
「…でコチラの攻撃隊からは?」
「護衛の駆逐艦三隻共々撃沈したそうです。
『レキシントン』の転覆を確認したそうなので間違いはありません」
「そうか!……で『エンタープライズ』は?」
「…駄目ですね」
「…此だけ探して見つからないとなると逆にハワイから離脱して逃げた可能性が高いな」
艦長の予測は当たっていた。
此の時、戦闘機の輸送任務中だった『エンタープライズ』は目的地のミッドウェー島の制空権に…それも島の西海に逃げ込んでいる途中だったのだ。
「仕方が無いな。
攻撃隊を回収したら支援任務は此処までにして予定通りに東太平洋での通商破壊を行うぞ。
このまま此の海域にいたら南雲艦隊と鉢合わせしてしまいそうだからな」
「既に補給艦との合流への手筈は整っています」
詳細は後に語る事になるのだが、此の空母は味方にも知られてはいけない影の存在となければいけない艦であったのだ。
此は戦後、ジェーン海軍年鑑に於いて史上最も偉大な軍艦”グランド(偉大なる)・ゼロ”として記録される此の空母を中心にして書かれる物語である。
感想・御意見お待ちしています。
既に史実と異なる点が多数あると思われますがそれ等は次回から徐々に説明していきます………多分