たまにはそーゆー話
風が吹く度に、彼女を照らしている木漏れ日が揺れる。
眩しそうに目を細めた彼女は、陽射しを遮ろうと太陽に掌をかざした。
透けるように白い手に、降ってきた光の欠片が反射して、周囲に散らばっていった。
ふと、彼女がこっちを向いた。
「…ウィル?」
やっと気付いたか。
ウィルは、樹に寄り掛かって座るミリアの方へ歩いた。足元の控え目な植物達が、靴の下敷きになっていく。
「せっかくの休日だし、ちょっとお守りをしてやろうかと思ってお前の部屋に行ったら、居なかった。」
「そう。せっかくの休日だったら、他にする事あるんじゃないの?」
ミリアの隣りに腰をおろし、ウィルも樹に寄り掛かった。
「…涼しいな、ここ。」
「うん。」
ミリアは空を見上げ、気持ち良さそうに風を受けた。
彼女の黒い髪が、揺れる。
「今日、初めて見付けた場所なんだ。結構穴場じゃない?」
「何を考えてたんだ?」
ウィルは、ミリアから視線を外して尋ねた。
彼女は暫らく唇を結んでいたが、やがてウィルから目を逸らした。
「何も」
「嘘付け。さっき、ぼーっとしてたろ。」
「私、いつもぼーっとしてるから。」
「…ミリア。」
ウィルは、ミリアの方に向き直った。彼女は相変わらず空を見ている。
「…ほら、これ見てよ。」
ウィルが溜息を吐いて地面を見ていると、突然ミリアが言った。
顔を上げると、ウィルの前に伸ばされた白い手に、深緑の色をしたクローバーが握られていた。
「私にそっくりなの。」
ミリア
「さっき踏んだ時に、葉っぱが二枚、千切れちゃったんだ。」
あぁ
「千切れた葉っぱを探してね、くっつけようとしたんだけどね。やっぱり無理だった。」
君は
「千切れちゃったら、もう、それで終わりなんだよね」
そんな事を言わないでくれ。
「ミリア。」
君を救えるのは俺だけだと、自惚れていたい。
「お前は一人じゃない」
俺がいる。
「泣きたいなら、泣いた方が良い」
俺がいるじゃないか。
「泣いたって、誰も責めない」
「ミリア…」
透き通る琥珀色の瞳から、流れ落ちていくそれ。気付かない振りをして、ウィルは彼女の柔らかな髪に触れた。
「いつまでも、一人でモヤモヤしてんじゃねぇよ…。」
彼女の髪に、そっと鼻先をうずめた。揺れている肩を抱き寄せ、ウィルは目を閉じた。
彼女の体温を、愛しいと思った。
壊れてしまわないで
俺に笑い方を教えてくれた人
俺に愛を教えてくれた人
壊れてしまわないで
俺の愛した、たった一つのクローバー。