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殴打の理由 1

「忙しいとこ呼び出して悪かったな」

「いや、今回小百合ちゃんには世話になったから。落ち着いたらちゃんと挨拶にいくつもりだったんだけどさ、先にお礼言っといてくれないか」

 その日、弘毅は洋介に呼び出された。そう言えば、こいつが小百合ちゃんにブロポーズした時も、俺もこいつを呼び出したよな。あれから2年半か……弘毅はあのときのことを思い出して少し懐かしい気分になった。

でも、祝ってくれるにしちゃぁこいつやけに刺々しいな。目の奥が笑ってねぇし……

クソ真面目なあいつのことだから、あんなやり方自体気に食わないんだろうな。そう、弘毅は思った。

「ああ、お前が礼を言ってたと言っとくよ。桜木……」

そう言って洋介は大きく息を吸い込んだと思うと、

「それでな、これが俺のお前への結婚祝いだ!!」

と言って弘毅をいきなり拳で思い切り殴った。

「何するんだよ、お前!!」

全く予想外のことだったので、弘毅はあっさり殴られて床に転がった。

「それを言いたいのは俺の方だ……お前なんで今になって……どうせならもう少し早く何で……」

(えっ、なんでこいつ泣いてるんだ!?)反撃に出ようと体勢を整えて洋介をみた弘毅は驚いた。洋介は自分を殴った拳を握りしめたままぼろぼろと涙を流していたのだ。

「洋介?」

「何で、今なんだ。」

「ああ、俺たちの共通の友達の……っていうか俺の元カノの絵梨香が今度結婚することになってさ、絵梨香から電話がかかってきたんだよ。『弘毅君まだ圭ちゃんのこと待たせてるの』ってさ…」



-*-*-*-



「別に待たせてなんかいねぇよ。あいつは俺なんか好きじゃねぇよ。」

弘毅は絵里香の言葉にそううそぶいた。

「ホントにそれ、圭ちゃんの口から聞いたの?」

「聞かなくたって……わかるさ。」

そうさ、あいつは俺が女の話をしようが顔色一つ変えないんだからな。弘毅がそう思っていると、絵梨香は少し笑いながらこう言った。

「弘毅君って、意外と女心解かんないのね。圭ちゃんって、弘毅君のことずっと好きだったわよ。でね、あの子にお祝いのお礼の電話した時、ちょっと鎌かけてみたのよ。たぶん今でも圭ちゃんは弘毅君のこと待ってるわ。弘毅君にばらすのは、私からのほんのお祝い返しよ」

「ウソだ、そんなはずない!」

絵梨香の言葉に弘毅はあわてて否定した。

「ウソじゃないわよ。あの頃だって、私が入る隙間なんてあなたたち2人の間にはなかったわ。私の方が彼女なのにって何度思ったか。だから、別れるときに圭ちゃんとこに行けって言ったげたのに……」

絵里香は軽くため息をつきながら笑ってそう言った。

そうだ、あの時も絵梨香はそういって俺を振ったんだ。絵梨香にそんなこと言われて振られたからって、ほいほいと圭子んとこなんかいけるかよって思ってたし、大体、あの時あいつにはちゃんと彼氏がいたんだぞ、そこに割り込んで行けって言う気か……と。弘毅はその当時のことを思い出して、少し苦い気持ちになった。


「ねぇ、私の結婚式の日、圭ちゃんを迎えに来ない?今から男の弘毅くんを招待者リストに加えるなんてムリだから、終る頃を見計らって迎えに来て一度ゆっくりと話し合ってみなさいよ。案外、友達の幸せを見たすぐ後なら、意地っ張りの圭ちゃんだってきっと本音が出ると思うな」

「本音ねぇ……」

そんなもん本当にあるのだろうかと弘毅は思った。

「高校時代の友達で残ってるのは後ナナだけだし、ナナはよっぽどじゃないと結婚しなさそうだから、これが最後のチャンスだと思うわよ、たぶん。素直になりなさいよ、でなきゃあのとき私が泣く泣く引いた意味もなくなるじゃない」



-*-*-*-



「絵梨香にそう言われて、俺は結婚式が終るのを待って圭子を俺の部屋に誘ったんだ。最初は真面目にコクるつもりだったんだぜ。でもさ、あいつってばさ、何かって言うと絵梨香、絵梨香って……俺、何かかぁーっと頭に血上っちゃってさ、『お前俺のこと嫌いか?!』ってつい怒鳴っちまって……で、嫌いじゃないって言われたらもう、止まんなくなっちゃってさ……力づくでいっちまった」

弘毅はそこまで話してため息をついた。

「その後、圭子はメアドは変えるし、着信まで拒否しやがるしで……やっぱり俺の一方通行だったんだって、嫌いじゃないって言ったけど、好きでもなかったんだって後悔した。けどさ」

「けど?」

「3ヵ月もシカトしていきなり呼び出してきたと思ったら、態度変わってやんの。『子どもができたらから産んでもいいか、迷惑じゃない?』ってな。惚れた女が自分の子どもを産むんだぜ、迷惑なもんかよ。できたって聞いた時、産みたくないって言うのかと思って、説得しようかと思ってたくらいなのに、正直気味悪いくらい素直になってやんの」

その時のことを思い出したのだろう、弘毅の顔は急激に緩んだ。

「でさ、急に変わるのって変だろ。だから、何でかって聞いたら、小百合ちゃんに自分の本当の気持ちを正直に出せって言われたらしいんだ。俺は絶対に喜ぶからって。小百合ちゃんがそう言ってくれなかったら、あいつずっと俺に言わずに、一人で産もうとしてたんだぜ。俺のガキなのに、俺が知らないなんてことアリかって話だろ。だからさ、ホントありがとう」

弘毅はそういうと洋介に頭を下げた。




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