相談
「折り入って話があるんだけど…」
本山圭子は短大時代の友人の遠藤小百合に呼び出された。
(3週間前のことでかな…)
圭子は小百合を飲み会に誘った。たまたま他の用事で電話した圭子が飲めない小百合を誘ったのは、弘毅に『久々だし、お互い5人ぐらいいねぇとな』と言われ、その日に『俺の方は5人揃ったぞ』というメールが送られてきたからだった。
やっぱかわいそうだったかな…と圭子は後悔したが、小百合はやっぱり盛り上がりの輪に乗り切れなかった男(確か木村さんって言ったっけ、彼)とぼそぼそと何か話しを始めた。
圭子はこの2人イケるかもと思った。そう思ったのは弘毅も同じだったようで、酔ったフリをして1軒目の店で帰ると言った小百合を洋介に送らせるように仕向けて移動したのだが……あれから何か進展でもあったんだろうか。
そんなことを考えながら仕事帰り、小百合に指定された喫茶店に急いだ。
「ごめんね…他に相談する人いなくて。でも、おケイちゃんは木村さんも知ってるし……」
やっぱり彼のことかと、圭子は思った。小百合の様子ではどうも悪い報告ではなさそうだ。しかし、小百合の口から出た言葉はその時の圭子の予想をはるかに超えていた。
「はぁっ!? プロポーズ?? あんた、あの飲み会ってまだ3週間前……」
小百合は、前日の日曜日に洋介から結婚して欲しいと言われたという。
どっちかというとそういうとこトロそうだと思ったから、おとなしいサユでも大丈夫だと思って押し付けたのに……ホントはとんでもなく手の早い奴だったとか? そんな奴が結婚なんていきなり口に出したりしないか……圭子はそんなことを考えながら小百合の話を聞いた。
「彼、引越しするんだって……」
「海外赴任とか?」
そういう理由があるなら、話は別だわ。
「ううん、今の部屋って学生時代に安いだけで選んだアパートだからボロなんだって。で、いい部屋が一つ見つかったんだけど、一人で住むには大きいんだって…」
何それ、ミエミエじゃん。やっぱ不安になってきた。
「一緒に住んでくれないかなって、もちろん木村小百合としてだよって……」
そして、小百合は赤くなりながらそう言った。
「ひょえ~、ストレート!! そんでサユ、あんた返事したの?」
「まだ。少し考えさせてくださいって……」
そうよね、会って3週間で結婚しようなんて、普通は言わないから。
「で、あんたはどうしたいの。木村さんのこと結構いいと思ってるんでしょ」
小百合ははにかみながらうなづいた。
「ま、しかし、いきなり結婚なんて言われたらビックリするか……しばらくじらしてみる?」
「……」
しかし圭子がそう言うと、小百合は口にこそ出さないがあからさまにそれは嫌だという表情をして見せた。
なんだ、相談じゃないじゃない――と圭子は思った。
「あ~、バカバカしい!あんたもう自分で答えだしてんじゃん。たとえそれが3週間だろうと、よしんば1日でも好きになるのに時間なんて関係ないでしょ。あんたが今会わなきゃならないのは私じゃなくて木村さんの方! もう私帰るから、今すぐ彼に連絡取りなさい。彼、どんな用事があったってすっ飛んでくるはずよ。で、さっさとOKしちゃいなさい。私の出る幕なし!」
そういうと圭子は伝票をつかんでレジに向かった。
「おケイちゃん……」
「結婚の前祝いにここのコーヒー代払っとくから。いい、今すぐ電話すんのよ!」
「うん……ありがと」
圭子が店を出た後、小百合は携帯を取り出してじっと眺めていたが、意を決して洋介の番号を検索して押した。
一方、圭子の方も店を出てから少し歩いた所で早速弘毅に電話を入れていた。
「ねぇ、弘毅……あの木村さんってどんな人?」
「藪から棒に何だ? 木村……洋介か。あいつ? 見たまんまの融通の利かない堅物だけど?」
「堅物なの?」
見た目どおりな訳ね。それならあんなことも本気で言ってるはず。サユにはけしかけるよう言い方したけど、いまいち不安だったもの。なんか安心した。そう圭子は思った。
「人数揃えんのに無理やり引きずり込んだんだ。酒は飲めない方じゃないけど、普段はあーいうのには参加しない奴だからな。俺に言わせりゃ、もう少し遊んだ方がいいんだけどな」
「弘毅が遊びすぎなのよ」
「うるせぇ、この間のあの子……小百合ちゃんとかいったっけ、あの子となんかあったのか?」
「彼、サユにプロポーズしたらしいわ」
それを聞いて弘毅は驚いた。
「ゲッ、いきなりそこ行くかよ!ま、あいつらしいちゃそうか」
クソ真面目な分だけ、好きになりゃ見境がつかなくなるのかもしれないと弘毅は思った。
「信用していいのね」
圭子は弘毅に念を押した。
「ああ、あいつなら大丈夫だよ。彼女を遊びになんてできるおとこじゃねぇ。しかし、あの洋介がねぇ~。やるときゃやるんだな…俺もくっつきそうだとは思ったけどさ、こんなに早く堕ちるかフツー…で、彼女は何て?」
「それがさ、どうも一目ぼれらしいのよ。だから、OKしろってけしかけたんだけど、何か不安であんたに電話したって訳……」
「マジかよ、それ……」
弘毅と圭子は同時に深いため息をついた。
「何か、ここまでくるとメルヘンだな。」
おとぎ話の王子様とお姫様の恋のようだと弘毅は思った。