時間差 1
洋介が亡くなってから9年の年月が流れた。
「ねぇサユ、乃笑留ちゃん北高で本当に良かったの? あの子ならもっと上狙えるでしょうに。周人が行ってるからって北高にしなくても良かったじゃない」
乃笑留の県立高校合格の知らせを圭子にした小百合は、彼女からそう言われた。
「ウチは私立には行かせられないもの……そうなると先生も安全策って言うのかしら、何も言われなかったわよ。確かに、周人くんを追っかけてっていうのは否定できないんだけどね、1年間辛かったみたいだから」
小百合はそういうとため息をついた。
「しっかしあの2人、わが子たちながらよく飽きないと思うわ。既に長年連れ添った夫婦の貫禄? みたいなモノまであるもんね」
「飽きるって……おケイちゃん、桜木さんに飽きたことあるの?」
圭子の言葉を聞いて小百合は笑いながらそう切り替えした。
「まさか!? 飽きるとかそういうもんでもないか……確かに腹立つことは一杯あるけど、飽きるんじゃないわねそれって。……って、まだ高校生と中学生だよ、あいつら……だから、なんか調子狂っちゃうのよね」
大人になることで、2人の関係は変わっていくのだろうか。圭子の返事を聞きながら、ふと小百合はそう思った。
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――4月――
水嶋葵は校門を入ったところにたたずんでいる女生徒を見つけた。制服がまだ真新しいので、たぶん1年生なのだろう。彼女は時計を眺めてため息をついていた。その姿が小柄で子どもっぽい感じとは妙にそぐわなかった。
気になってしばらく見ていると、始業ぎりぎりになって走りこんできた同じクラスの桜木周人に彼女は近寄っていった。
「周ちゃん、遅いよ!」
「ゴメン、でも間に合ったから良いじゃ。」
口を尖らせていう彼女に、周人は手でゴメンのポーズを取りながら、笑って言った。
「ギリギリはイヤだって。はい、お弁当」
彼女はそう言うと当然のように周人に手作りらしきお弁当を渡した。
「今日は何?」
周人はひょいと弁当箱を目の上まで上げて言った。
「卵焼きと……いちいち説明してる暇ないよ、もう教室に行かないとやっぱり遅刻になっちゃうじゃん」
彼女は少し説明しかけたが、途中で足をじたばたさせてそう怒った。
「ああ……どうでもいいけど、お前だんだん洋介パパに似てきてねぇ?」
「そりゃ、娘だもん。似ないでどうすんの。もう私、行くね」
「おう。ありがと、後でな」
そういうと2人はそれぞれの教室に向かって走って行った。あわてて葵もそれに続く。
――ああ、この子が問題の……――
と、葵は思った。
葵はアイドル系の容姿でサッカー部の周人に好意を持った。だが、彼女がそのことを周人と同じ中学から来たミソノに相談した時、ミソノは、
「葵、あいつはムリ、止めときな」
と、即答であきらめるように言ったのだった。
「何で?」
「あいつもう売約済みだから」
「は? 売約済み?」
葵は思わず聞き返した。
「1年下に彼女がいるの。彼女っていうより奥さんって言った方が正しいって感じ」
1つ年下ってことは中3だよね……中3で既に奥さんってあり得ないじゃん、そんなの。一体どんな娘なんだろ。葵はそう思っていた。
小柄でかわいい感じだけど、別にとんでもなく美人でもないし……どこが良いんだろと葵は思った。
神山でございます。
今回一気に飛んで、子供世代のお話です。