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ヨルの苦悩

h県h市、都会というにはにぎやかさに欠け、田舎というには景観を損ねる建物が散見するこの街。


しかし、若者たちの夢や希望を打ち砕いてきたh市の2028年目は、全く違ったものとなる。



都会暮らしを夢見つつ、中途半端な自然の中一生を終える、市民のライフモデルは大方そういった類のものである。

2028年までは西園美夜(ヨル)もその一人であり、止めどなく流れる時の中焦りを感じずにはいられなかった。


倍率3000倍...現実味のない話だな。とヨルはため息をつく。

大人気カフェ『ストリートバックス』若さと賑やかさに包まれるこの場所でここまで深いため息をついたのは後にも先にもこの女ぐらいではなかろうか。


見つめるノートパソコンのディスプレイには、異世界門番の文字。

なにもコンセプトカフェの求人で悩んでいるわけではない。


『異世界』 


2028年h市と突如合併を発表した、見知らぬ国家『ベルフェルム』を人々はそう呼称せざるを得なかった。

まさに人々が思い描く異世界。魔法や剣技、多数の種族や文化がその街には存在した。


人々は口々にこう言う、「ラノベやファンタジーの世界そのものではないか」と。


だが、ベルフェルム観光大使は驚きの言葉を口にした。「ラノベやファンタジーといった類は、我々が滞りなくこの街に合併するためにあえて流通させたものであり、すべては予定調和である」


「予定調和・・・ね」とヨルは言葉を漏らした。

なら私が28という夢を追うには行き過ぎた年齢になるまで、『異世界』とやらが現れなかったのも予定調和だろうか。


ヨルの心の中には、いつも今の世界にはない『何か』への憧れがあった。

都会の暮らしや、注目を浴びる仕事。どれを志すにしてもぬぐい切れぬ物足りなさ、その感情を埋めてくれる『何か』がこの異世界門番なる職業からはひしひしと感じられたのである。

確たる理由もない。保障もない。というのもこの求人には仕事内容も募集要項もなにも載っていない。

あるのは、ベルフェルム大門下にて面接ありとの情報のみ。

それでもベルフェルム直属機関からの求人には数多くの応募が集まり、結果的に倍率3000の大人気求人となった。


「応募すればいいじゃない。」そう言い放ったのはヨルの対面に座る大森である。

黒髪に赤色のメッシュ。ピアスは少なくとも4つはついているだろうか。h市に見合わぬファッションでありながら不思議と違和感を感じさせないそのセンス。

h市の地獄のライフモデルをかいくぐり都会への進出を果たすのはおそらくこういった人間であろうなとヨルは思う。

それにしても簡単に言ってくれる。


「あのねえ、倍率3000倍なんてそこらの企業と比べ物にならないのよ・・・

それに募集要項だってありゃしない。万に一つ受かったとしても今の企業蹴ってまで行くのはリスクが高すぎる。」


ヨルの言葉を聞いて大森は不敵な笑みを浮かべている。こいつと話しているとすべてを見透かされている気分だ・・・

「言われてみれば確かにそうね。」と大森。

ちょっと待ってくれそれは話が違うじゃないか。


正直言ってヨルは大森に後押ししてほしかった。

典型的なかまって女がかますムーブというのが分かっていてもやめられない。

それほどに今回の案件はヨルにとって決めがたい案件だったのだ。






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