地獄の沙汰もポイントしだい ~囚人のジレンマ・地獄変~
ある日、マサルは子猫を助けようとして屋根から落っこち、死んでしまった。
────あの世
「ここは、どこなんだ?」
気づけばマサルはあの世にいた。
「おい、新入り」
「わっ、鬼だ! 本物の鬼?」
「ぐずぐずするな、こっちだ。エンマ様がお待ちだぞ」
「は、はい……」
マサルは、言われるまま鬼について行った。
「ここが、エンマ様のオフィスだ」
そこには、一目でエンマ大王とわかる人物が机に向かっている。
大王は手元の帳面をめくった。
「えーと、次は……。健陀 多か、相違ないな?」
「は、はい。あなたがエンマ様?」
「シャラップ! きさまは質問された時だけしゃべればよい。さて、お前のシャバでの罪だが」
「お言葉ですが、エンマ様、僕はつつましく生きてきました」
「だまらっしゃい! きさま、『小説家になれない』に投稿しておっただろう?」
「そうですが……?」
「きさまの罪状は、『つまらん小説で読者の時間をうばった罪』だ!」
「ええ? そんな、殺生な!」
「殺生? 言葉に気をつけろよ、マサルとやら。というわけで、地獄行きね」
マサルはうなだれた。
「……しかしだ、きさまが子猫を助けたこと、わしはちゃんと見ておるぞ。だから、転生のチャンスをやろうではないか。どうだ?」
「はいはいはいはい! チャンスください!」
「うるさいやつだな。……おい!」
──エンマ大王が合図をすると、4人の亡者が鬼に連れられて現れた。
「その者たちはな、きさまとおなじ罪を犯した者たちじゃ。きさまら5人の全員にチャンスをやろう」
マサルをふくめた5人がざわついた。
「それで……どうすればよろしいので?」
「それはな……おいっ」
鬼が、マサルたち5人にそれぞれ手帳とペンを渡した。
「その手帳に、きさまらの犯した罪の懺悔を書くんじゃ。内容は好きに書いてよい」
「それで助かるのですか?」
「まずは書け。……あ、内容は問わないと言ったが、日本語で、意味の通るものを書けよ。あと、200字以上でな」
マサルたちは、いっせいに自分たちの懺悔を手帳に書き込む。マサルは、『つまらない作品を書いてすみません』などと書き込んだ。
──全員が書き終わると、鬼が回収し、エンマが目を通す。
「さて、それではこれをシャッフルして、1冊ずつきさまらに渡す」
鬼が、回収した手帳をふたたびマサルたちに配った。
「今、お前たちの手には、他の4人の誰かの懺悔を書いた手帳があるわけだが、それを読んで評価を付けるのじゃ」
「評価?」
「1点から5点まで、好きな点をつけろ。そして5点を付けられた者は、転生できるというわけじゃ」
5人からどよめきが上がった。
「しかし、4点以下だった者は、地獄行きとなる。簡単じゃろ?」
確かに簡単だ……。いや、簡単すぎるとマサルは思った。
(なんだ。だったら、全員が5点を入れればいいだけじゃないか。そうすれば全員が5点を得て、助かるわけだ)
「ただし……!」
エンマが、まるでマサルの心を読んだように言った。
「転生オフィスが定員オーバーでな。だから、少なくとも1人は地獄に行ってもらう」
エンマが、とんでもない条件を出してきた。
「4点以下の者がいれば、その者が地獄行きだが、全員が5点だった場合は、ランダムに1人が選ばれて地獄行きじゃ」
「そ、それでは、もし全員が4点以下なら……?」
誰かが、震える声でたずねた。
「最初に言った通り、そもそも4点以下の者は、全員、地獄行きじゃ」
マサルたち5人は、顔を見合わせた。
「ち、ちなみにですが、地獄での刑期ってどのくらいですか?」
「きさまらの罪は軽いから、そうじゃな……1兆年ってところか」
「い、1兆年!?」
声が裏返った。
「さあ、さっさと手帳を読むのじゃ」
マサルは渡された手帳を開いた。そこには、誰かが書いた『エタらせてすみませんでした』などと書かれている。
「……全員、読んだな? では最後のページに評価を書き込め、1から5点でな。好きな点を付けろ」
点数を書こうとしたマサルの手が止まった。他の4人も同じだった。
(まてよ……)
──考えていた。
……もし、全員が5点を入れた場合、誰か1人が地獄行きになる。それは、自分かもしれない。
それなら、自分が他の者に4点以下を入れれば、入れられた者は地獄行き確定だから、自分と他の3人は助かる?
しかし、他の4人も今のマサルと同じことを考えたらどうなる……?
全員が4点以下を入れれば……全員が地獄行きだ。
(それはまずい。じゃあ、やはり5点を入れたほうがいいのか?)
自分が5点を入れればその者は助かるが、もし自分が4点以下を入れられていたら、地獄行きだ。
(どうすればいいんだ……)
マサルはみんなの表情を見た。みんなが疑心暗鬼になれば、全員が互いを道連れだ。
「どうした、さっさと評価を書かんか!」
エンマが喚いた。全員、あわてて点数を書き込んだ。
「よし、書いたな」
エンマが言うと、鬼が手帳を回収した。
「……それでは、これから懺悔の内容を読んだかどうかのテストをする」
「テスト!?」
「言い忘れておったが、テストは当然じゃろう? 内容も読まずに評価はできんからな。読んでいないやつは地獄行きじゃぞ」
また、5人がざわついた。
「じゃあ、まずはきさまからじゃ。名前は……『フジムラ トシユキ』か」
「トシユキだって?」
マサルは声をあげた。
「そいつは、『なれない』の中でも、ろくに読みもしないで評価をすることで有名なやつだぞ」
思わず叫ぶマサルを、エンマが制した。
「これこれ、静粛に。トシユキとやら、それはまことか?」
「めめ、めっそうもございません! 言いがかりです。私は、きちんと読んでおります」
「まあいい。ではテストじゃ。きさまが読んだ懺悔の内容を答えてみよ」
「う……、うぐぐ」
「どうした、早く申せ!」
「は、はい。私が読んだものには……『私は、風刺と称してひねくれた作品ばかりを書いてきました』……と書いてありました!」
それを聞いて全員が沈黙したが、やがてエンマが口を開いた。
「……トシユキよ、よくそんなありもしないことが言えるな。きさまはAIか? だいたい、ひねくれたものを書くのはきさまだろうが!」
「ひ、ひいい!」
「どうやら、きさまは懺悔を読んでいなかったようだな」
「お、お許しを!」
「はい、地獄行きね」
「そ、そんな! お慈悲を……」
「ええい、見苦しい。おい、さっさと連れていけ!」
泣き叫ぶトシユキの両脇を、2匹の鬼が抱えて連れて行った。
「さーてと。1人が地獄へ行ったから、他の者は転生ルートじゃな」
「ほ、ほんとうですか!? ありがとうござい……」
「あー、礼はいいから。わしも忙しいんじゃ。さっさと行くがよいぞ」
マサル以外の3人の亡者の姿が、順に消えていく。
「でも、エンマ様って、そんなに忙しいんですか?」
消える前にマサルがたずねた。
「ん? わし、小説を書いて投稿しとるからな。ふふふ……」
「……え?」
──何か言おうとした瞬間、マサルも消えた。
────
目覚めると、マサルは庭で寝転がっている。
「あ、そっか。さっき屋根から落ちて……。いてて……。なーんだ、夢か、あの地獄は」
体を起こし、埃を掃っていると、ふと手に何かが当たった。いつの間にか、ポケットに手帳が入っている。
「こ、これは……」
あの『手帳』だった。恐る恐る開くと、あのときマサルが書いたものだった。
「じゃあ、あれ夢じゃなかったの?」
手帳を持ったままマサルが立ち尽くしていると、子猫が足元でみゃあみゃあと鳴いた。
「お、どうやらお前も助かったみたいだな」
(おまけ)
家に入ると、マサルはPCで『小説家になれない』のサイトにログインし『作者名で検索』をした。
「……あ、あった! 投稿者・『エンマ大王』だ。いったいどんな小説を書いてるんだろう?」
マサルはずらりと並んだ作品を見た。
『転生したらエンマ大王だったので、地獄で無双します』
『転生したらサドルだった』
『美少女に転生したと思ったら、用水路でした』
『エンマ大王だけど質問ある?』
「……なんだこりゃ? いちおう読んでみるか」
────
「……うぐぐ、なんだこれ、クッソつまらんぞ。これを読むのは地獄だ、地獄」
(おわり)
ひねくれた作品を書いてすみませんm(__)m
※この作品はフィクションです。実在の人物、ウェブサイト、地獄とは関係ありません。




