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地獄の沙汰もポイントしだい ~囚人のジレンマ・地獄変~

掲載日:2026/06/11

 

 ある日、マサルは子猫を助けようとして屋根から落っこち、死んでしまった。



 ────あの世



「ここは、どこなんだ?」


 気づけばマサルはあの世にいた。


「おい、新入り」


「わっ、鬼だ! 本物の鬼?」


「ぐずぐずするな、こっちだ。エンマ様がお待ちだぞ」


「は、はい……」


 マサルは、言われるまま鬼について行った。



「ここが、エンマ様のオフィスだ」


 そこには、一目でエンマ大王とわかる人物が机に向かっている。

 大王は手元の帳面をめくった。


「えーと、次は……。健陀(たけだ) (まさる)か、相違そういないな?」


「は、はい。あなたがエンマ様?」


「シャラップ! きさまは質問された時だけしゃべればよい。さて、お前のシャバでの罪だが」


「お言葉ですが、エンマ様、僕はつつましく生きてきました」


「だまらっしゃい! きさま、『小説家になれない』に投稿しておっただろう?」


「そうですが……?」


「きさまの罪状は、『つまらん小説で読者の時間をうばった罪』だ!」


「ええ? そんな、殺生な!」


「殺生? 言葉に気をつけろよ、マサルとやら。というわけで、地獄行きね」


 マサルはうなだれた。


「……しかしだ、きさまが子猫を助けたこと、わしはちゃんと見ておるぞ。だから、転生のチャンスをやろうではないか。どうだ?」


「はいはいはいはい! チャンスください!」


「うるさいやつだな。……おい!」



 ──エンマ大王が合図をすると、4人の亡者が鬼に連れられて現れた。


「その者たちはな、きさまとおなじ罪を犯した者たちじゃ。きさまら5人の全員にチャンスをやろう」


 マサルをふくめた5人がざわついた。


「それで……どうすればよろしいので?」


「それはな……おいっ」


 鬼が、マサルたち5人にそれぞれ手帳とペンを渡した。


「その手帳に、きさまらの犯した罪の懺悔ざんげを書くんじゃ。内容は好きに書いてよい」


「それで助かるのですか?」


「まずは書け。……あ、内容は問わないと言ったが、日本語で、意味の通るものを書けよ。あと、200字以上でな」


 マサルたちは、いっせいに自分たちの懺悔ざんげを手帳に書き込む。マサルは、『つまらない作品を書いてすみません』などと書き込んだ。



 ──全員が書き終わると、鬼が回収し、エンマが目を通す。


「さて、それではこれをシャッフルして、1冊ずつきさまらに渡す」


 鬼が、回収した手帳をふたたびマサルたちに配った。


「今、お前たちの手には、他の4人の誰かの懺悔を書いた手帳があるわけだが、それを読んで評価を付けるのじゃ」


「評価?」


「1点から5点まで、好きな点をつけろ。そして5点を付けられた者は、転生できるというわけじゃ」


 5人からどよめきが上がった。


「しかし、4点以下だった者は、地獄行きとなる。簡単じゃろ?」


 確かに簡単だ……。いや、簡単すぎるとマサルは思った。


(なんだ。だったら、全員が5点を入れればいいだけじゃないか。そうすれば全員が5点を得て、助かるわけだ)


「ただし……!」


 エンマが、まるでマサルの心を読んだように言った。


「転生オフィスが定員オーバーでな。だから、少なくとも1人は地獄に行ってもらう」


 エンマが、とんでもない条件を出してきた。


「4点以下の者がいれば、その者が地獄行きだが、全員が5点だった場合は、ランダムに1人が選ばれて地獄行きじゃ」


「そ、それでは、もし全員が4点以下なら……?」


 誰かが、震える声でたずねた。


「最初に言った通り、そもそも4点以下の者は、全員、地獄行きじゃ」


 マサルたち5人は、顔を見合わせた。


「ち、ちなみにですが、地獄での刑期(・・)ってどのくらいですか?」


「きさまらの罪は軽いから、そうじゃな……1兆年ってところか」


「い、1兆年!?」


 声が裏返った。


「さあ、さっさと手帳を読むのじゃ」


 マサルは渡された手帳を開いた。そこには、誰かが書いた『エタらせてすみませんでした』などと書かれている。



「……全員、読んだな? では最後のページに評価を書き込め、1から5点でな。好きな点を付けろ」


 点数を書こうとしたマサルの手が止まった。他の4人も同じだった。


(まてよ……)



 ──考えていた。


 ……もし、全員が5点を入れた場合、誰か1人が地獄行きになる。それは、自分かもしれない。


 それなら、自分が他の者に4点以下を入れれば、入れられた者は地獄行き確定だから、自分と他の3人は助かる?


 しかし、他の4人も今のマサルと同じことを考えたらどうなる……?

 全員が4点以下を入れれば……全員が地獄行きだ。


(それはまずい。じゃあ、やはり5点を入れたほうがいいのか?)


 自分が5点を入れればその者は助かるが、もし自分が4点以下を入れられていたら、地獄行きだ。

 

(どうすればいいんだ……)


 マサルはみんなの表情を見た。みんなが疑心暗鬼になれば、全員が互いを道連れだ。



「どうした、さっさと評価を書かんか!」


 エンマが喚いた。全員、あわてて点数を書き込んだ。


「よし、書いたな」


 エンマが言うと、鬼が手帳を回収した。


「……それでは、これから懺悔の内容を読んだかどうかのテストをする」


「テスト!?」


「言い忘れておったが、テストは当然じゃろう? 内容も読まずに評価はできんからな。読んでいないやつは地獄行きじゃぞ」


 また、5人がざわついた。


「じゃあ、まずはきさまからじゃ。名前は……『フジムラ トシユキ』か」


「トシユキだって?」


 マサルは声をあげた。


「そいつは、『なれない』の中でも、ろくに読みもしないで評価をすることで有名なやつだぞ」


 思わず叫ぶマサルを、エンマが制した。


「これこれ、静粛せいしゅくに。トシユキとやら、それはまことか?」


「めめ、めっそうもございません! 言いがかりです。私は、きちんと読んでおります」


「まあいい。ではテストじゃ。きさまが読んだ懺悔の内容を答えてみよ」


「う……、うぐぐ」


「どうした、早く申せ!」


「は、はい。私が読んだものには……『私は、風刺と称してひねくれた作品ばかりを書いてきました』……と書いてありました!」


 それを聞いて全員が沈黙したが、やがてエンマが口を開いた。


「……トシユキよ、よくそんなありもしないことが言えるな。きさまはAIか? だいたい、ひねくれたものを書くのはきさまだろうが!」 


「ひ、ひいい!」


「どうやら、きさまは懺悔を読んでいなかったようだな」


「お、お許しを!」


「はい、地獄行きね」


「そ、そんな! お慈悲を……」


「ええい、見苦しい。おい、さっさと連れていけ!」


 泣き叫ぶトシユキの両脇を、2匹の鬼が抱えて連れて行った。



「さーてと。1人が地獄へ行ったから、他の者は転生ルートじゃな」


「ほ、ほんとうですか!? ありがとうござい……」


「あー、礼はいいから。わしも忙しいんじゃ。さっさと行くがよいぞ」


 マサル以外の3人の亡者の姿が、順に消えていく。


「でも、エンマ様って、そんなに忙しいんですか?」


 消える前にマサルがたずねた。


「ん? わし、小説を書いて投稿しとるからな。ふふふ……」


「……え?」


 ──何か言おうとした瞬間、マサルも消えた。



 ────



 目覚めると、マサルは庭で寝転がっている。


「あ、そっか。さっき屋根から落ちて……。いてて……。なーんだ、夢か、あの地獄は」


 体を起こし、埃を掃っていると、ふと手に何かが当たった。いつの間にか、ポケットに手帳が入っている。


「こ、これは……」


 あの『手帳』だった。恐る恐る開くと、あのときマサルが書いたものだった。


「じゃあ、あれ夢じゃなかったの?」


 手帳を持ったままマサルが立ち尽くしていると、子猫が足元でみゃあみゃあと鳴いた。


「お、どうやらお前()助かったみたいだな」



(おまけ)



 家に入ると、マサルはPCで『小説家になれない』のサイトにログインし『作者名で検索』をした。


「……あ、あった! 投稿者・『エンマ大王』だ。いったいどんな小説を書いてるんだろう?」


 マサルはずらりと並んだ作品を見た。


『転生したらエンマ大王だったので、地獄で無双します』


『転生したらサドルだった』


『美少女に転生したと思ったら、用水路でした』


『エンマ大王だけど質問ある?』



「……なんだこりゃ? いちおう読んでみるか」


 ────


「……うぐぐ、なんだこれ、クッソつまらんぞ。これを読むのは地獄だ、地獄」



(おわり)


ひねくれた作品を書いてすみませんm(__)m


※この作品はフィクションです。実在の人物、ウェブサイト、地獄とは関係ありません。

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― 新着の感想 ―
ひねくれとる!Σ(゜Д゜)
おお、まさに「囚人のジレンマ」。 そして、トシユキの犠牲により、皆が生還。 しかも、トシユキを刺したマサルまで。 て、あれ? エンマの約束は「転生」だったはずだが、元の肉体に生還…… これは地獄変で…
 今現在、私自身が自身に投稿資格があるかを問い掛けております。  というのも、例のAI自動翻訳の件ですけど、あれを私自身の日本語に対する語彙力に適用させてみたところ、まず無理かもってことになりまして。…
感想一覧
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