第十九話 青龍(せいりゅう)の理想と未来の国家(くに)
腐敗した宋王朝が倒れ、梁山泊の旗が都に翻りました。英雄たちの武勇と、遥の智恵によって、血で血を洗う歴史の悲劇は回避されました。
勝利から数日後、遥は宋江、盧俊義、呉用ら幹部を集め、今後の国家運営の基本理念を提示しました。
「我々の義は、権力を奪うことではありません。民が飢えや疫病に苦しまず、知恵と平和の中で生きる『新しい国』を創ることです」
遥が示したのは、単なる王政復古ではない、未来の知識に基づいた革新的な国家構想でした。
遥が描く未来の国家構想
1. 知識の公平な普及(教育革命)
「腐敗の根源は、知識の独占にあります。我々は、全国に『学舎』を設置します。身分や性別に関係なく、全ての子供が読み書きと計算、そして衛生の基礎知識を学べるようにします」
遥は、既に梁山泊で実用化している簡易活版の技術を全国に広め、書籍を大量印刷し、知識を共有する計画を発表しました。
2. 経済の公平な分配(市場革命)
「柴進殿と顧大嫂の主導のもと、朝廷が独占していた塩、鉄、穀物といった生活必需品の専売を廃止します。これにより、価格は安定し、民衆の生活は豊かになります。さらに、農地の分配と、過酷な税の撤廃を直ちに実行します」
3. 医療と衛生の重視(福祉国家の礎)
「安道全殿の指導のもと、全国の主要都市に**『公衆衛生所』**を設けます。梁山泊で成功した清潔な水と手洗いの重要性を徹底し、伝染病の発生そのものを予防します。医者の地位を高め、全ての民が平等に治療を受けられる仕組みを構築します」
宋江は、その壮大で、民の生活に深く根差した構想に、感極まりました。
「青龍よ…これは、まさに我らが目指した『義』の究極の形だ。武力ではなく、智恵と情けで、この国を根底から変える計画だ」
遥は、最後に最も重要な宣言をしました。
「この新しい国は、王族や特定の個人が統治するものではありません。私たちは、民の生活が安定するまで、『義のネットワーク』として国家を運営します。そして、国家の基本法である『公平な法典』を定め、その法の下で、宋江殿と盧俊義殿が、新しい国の礎を築くのです」
遥は、自らが権力の中枢に座ることを望みませんでした。彼の目的は、歴史の悲劇を回避し、持続可能な平和な社会の種を植え付けることでした。
呉用は、遥のその清廉な志に深く頭を下げました。「青龍殿。あなたは、真の『王』です。武力も権力も求めず、ただ未来の知恵でこの国を救う。我々、百八星は、あなたの理想を現実のものとします!」
こうして、梁山泊の英雄たちは、刀を鍬に持ち替え、軍事的な勝利から、人類の進歩を促す「未来の国家づくり」へと、その活動の軸を移していきました。
語り手 盧俊義
私は盧俊義。最強の武術家と呼ばれた。だが、青龍の示した理想の前では、私の武術など、小さな力に過ぎない。
彼が創ろうとしている国は、私がこれまで知っていた、金と地位に汚れた世界とは全く違う。全ての子供に教育を、全ての民に清潔な水を、公平な分配を。
私の命は、宋江殿の義によって救われた。そして、私の武術は、青龍のこの壮大な理想を守り、実現するためにある。
私は、新しい国の副頭領として、宋江殿と共に、この『義のネットワーク』を盤石なものにする。これは、私にとって生涯をかけた、最も名誉ある戦いだ。
次回、最終話。遥の物語の結末と、梁山泊が築いた新しい国の未来が描かれます。




