第十六話 最終星(スター)招集と百八星(ひゃくはっせい)の輝き
東の青州から、南の江州から、派遣された解放軍が勝利を収め、梁山泊への帰還を果たしました。
山塞は、歓喜と熱気に包まれていました。林冲が連れてきた王英や燕順といった清風山の豪傑たち。武松が救い出した燕青や情報に長けた者たち。そして、呉用が招き入れた道術の使い手、公孫勝。
百八星のうち、すでに八十名を超える好漢が、梁山泊の旗の下に集結していました。
晁蓋は、その熱狂的な光景を前に、涙を抑えきれませんでした。「青龍よ。お前の智恵が、これほどの義の魂を一つにした。この世に、これ以上の奇跡があるだろうか!」
遥は、静かに頷きました。「頭領。しかし、まだ梁山泊の武勇を真に完成させる、『最後のピース』が残っています」
遥が示したのは、都に匹敵する大都市、大名府でした。そして、そこに住む一人の男の名を挙げました。
「玉麒麟、盧俊義です。彼は、武術・知略において右に出る者がいない、文武両道の達人。彼こそが、梁山泊の副頭領として、宋江殿に並び立つに相応しい人物です」
宋江もまた、盧俊義の武勇と人格を深く尊敬していました。しかし、盧俊義は富裕な商人で、朝廷への反逆とは無縁の暮らしを送っています。
「盧俊義殿は、朝廷の不正を知りつつも、その地位と財力から、義の道へ踏み出せずにいます。彼の心に義の炎を灯すには、単なる勧誘では駄目です。梁山泊の義が、どれほど強大で、どれほど民衆に愛されているかを示す必要があります」遥は断言しました。
遥が打ち出した作戦は、単なる盧俊義のスカウトに留まりませんでした。それは、大名府周辺に未だ集結していない好漢たちを、一網打尽にするための「総決起作戦」でした。
究極の「義の証明」作戦
経済的震撼: 柴進と顧大嫂の情報網を使い、大名府の腐敗官僚が隠し持つ闇の財宝の場所を特定。その財宝を全て奪取し、その金で良質な穀物を買い、大名府周辺の貧しい民に無償で配布する。
武力の示威: 盧俊義の屋敷周辺で、官軍に不当に追われている英雄たち(後に重要となる関勝や呼延灼ら武勇に優れた好漢)を、林冲、武松、魯智深の三虎が衆人の面前で圧倒的な武力で救出する。
予言と天命: 呉用と公孫勝の道術で、大名府の空に「義の旗」を象徴する幻影を出現させ、「天命は梁山泊にあり」という予言を民衆に植え付ける。
遥の作戦は、「悪を討ち、民を救い、そして天命を示す」という、梁山泊の全ての理念を盛り込んだ、壮大すぎるものでした。
この作戦は、大名府全土を震撼させました。腐敗官僚が貯め込んだ金が民衆に渡り、長年飢えていた民衆は梁山泊を「真の救世主」として崇めました。そして、梁山泊の武勇と公孫勝の道術が、盧俊義の心に直接訴えかけました。
盧俊義は、自分の富や地位が、この梁山泊の「義」の前にいかに無力で、虚しいものかを知りました。彼は、生涯の友である燕青が既に梁山泊に合流していることを知り、その決意は揺るぎないものとなりました。
「私の武術は、腐敗した朝廷のためではなく、この義のためにあるべきだ!」
こうして、盧俊義を筆頭に、関勝や呼延灼など、百八星に残るほとんど全ての主要な好漢たちが、この「総決起作戦」を通じて梁山泊へと合流を誓いました。
梁山泊の山塞には、百八星が全て集結する時が刻一刻と迫っていました。遥がもたらした未来の智恵が、ついにこの時代の歴史を完全に書き換えようとしています。
語り手 盧俊義
私は盧俊義。武術に生涯を捧げたが、世の不義に目を瞑り、富と名誉の中に生きてきた。それが、私に残された唯一の道だと思っていた。
しかし、梁山泊の行いは、私の世界を打ち砕いた。彼らは、腐敗した者から奪った金を、私利私欲のためではなく、本当に苦しむ民のために使った。
そして、彼らの武勇と、空に現れた義の幻影。あれは、もはや人間の力ではない。天が梁山泊に命じた証だ。
私を慕う忠実な友、燕青は、既に梁山泊にいる。私がこの武術を振るうべき場所は、梁山泊以外にない。
私の玉麒麟の武術と、青龍の智恵、そして宋江の慈愛が合わされば、この腐敗した宋王朝を打ち倒すことができる。
いざ、梁山泊へ!私の人生は、今日から義のためにある!
次回、百八星が完全に集結し、遥が最終的に目指す「理想の国」の青写真が描かれます。




