第十五話 百八星(ひゃくはっせい)招集と天下統一(てんかとういつ)への道
梁山泊に集結した英雄たちの力は盤石でしたが、遥は、腐敗した宋の体制を完全に変革するには、さらなる人材が必要だと知っていました。残る九十余名の好漢たちもまた、各地で不当な苦しみを受けているからです。
「宋という国は広大です。全ての不義を我々の手で解決するには時間がかかりすぎる。ここは、武力による解放と、智恵による登用を同時に進めます」遥は、呉用と共に策を練りました。
遥が提案したのは、梁山泊の武勇を誇る五虎将を中心とした「解放軍」の派遣でした。目的は、腐敗官僚に支配されている重要な州や県を解放し、同時に、そこに囚われたり苦しんでいたりする好漢たちを救い出すことでした。
「林冲殿。あなたは魯智深殿と、東の青州へ。そこには、数多くの豪傑たちが圧政に苦しんでいます」
遥は青州の地図を広げ、具体的な場所を指し示しました。
二龍山:魯智深の縁者がいる場所。孫二娘の合流で確実となった。
清風山:王英や燕順など、後に重要となる豪傑の拠点。
桃花山:李忠ら、林冲と縁のある者たちが集う。
「これらの山塞は、個々では官軍に勝てても、連携が取れていません。彼らを解放し、我々の義の理念を伝えることで、一挙に数十名の好漢を梁山泊のネットワークに組み込めます」
林冲は、その戦略的かつ人情味あふれる計画に深く感銘を受けました。「青龍殿。お見事。彼らが自ら梁山泊の旗を振るよう、説得して見せましょう」
一方、武松と李逵は、南の江州へ派遣されました。そこには、宋江とも縁が深く、処刑の危機に瀕している浪子の燕青や、神行太保戴宗の部下など、情報と武力に長けた好漢が多数いました。
遥の指示は、単なる武力行使ではありませんでした。
武松は、その圧倒的な武勇で悪徳官吏を討伐し、義の威光を示す。
李逵は、その天真爛漫な荒々しさで、民衆の鬱屈した感情を解放する象徴となる。
そして、最も重要な任務は、公孫勝の招集でした。彼こそが、百八星随一の「道術の使い手」です。
「呉用殿。あなたは、戴宗と共に公孫勝殿の元へ。我々の義は、知恵と武力だけでなく、彼のような超常的な力も必要としています。彼に、天の命を受けた義の軍であることを説き、仲間に加えてください」
この多方面同時展開作戦の結果は、遥の予測通り、劇的なものでした。
林冲の隊は、青州の山塞群を次々と解放し、王英、燕順、李忠ら、後に梁山泊の中核となる多くの好漢を説得。彼らは、林冲の義と、梁山泊の持つ組織力、そして遥の智恵に心から感服し、旗を返して梁山泊へと合流を決めました。
江州では、武松と李逵の活躍により、燕青らが無事に解放され、彼らが持つ情報網や知恵も梁山泊へ組み込まれました。
そして、呉用と戴宗は、公孫勝を説得し、彼の絶大な道術の力を梁山泊の義のために使うことを約束させました。
これにより、梁山泊は一気に総勢三十名を超える中核の好漢たちを獲得。遥が目指す「天下を変革する義のネットワーク」の構築は、最終段階へと移行したのです。
語り手 呉用
わしは呉用。智多星と呼ばれるが、青龍の戦略の広大さには、常に感銘を受ける。
彼の策は、単に敵を倒すことではない。各地で不当に苦しむ「宝」のような好漢たちを、最小限の労力で、最大効率で集めることにあった。まるで、磁石で鉄粉を集めるように、彼の智恵は、義を求める者たちの心を惹きつける。
公孫勝の力は絶大だ。彼が加わったことで、梁山泊の力は、もはや武力や経済といった次元を超越した。天命を受けた、真の義の軍勢となったのだ。
百八星の大部分が、今や梁山泊の旗の下に集結しようとしている。わしらは、歴史の悲劇を回避し、いよいよこの国を根底から変える最終段階に入った。
次回、百八星の主要な英雄たちが梁山泊へ大集結。そして、遥の知識が、国難を救う究極の策を打ち出す!




