第十三話 火薬(かやく)の嵐(あらし)と梁山(りょうざん)の防衛線
梁山泊が経済力と武力を増強する中、都の宰相蔡京は、相次ぐ敗北と英雄たちの流出に激怒しました。彼は、梁山泊を単なる「盗賊の巣窟」ではなく、体制を脅かす「巨大な敵」と認識し始めました。
ついに、朝廷は梁山泊殲滅のため、経験豊富な老将を総大将とし、数万にも及ぶ大軍を動員しました。
「遥、ついに奴らが本気を出した。兵力は数万。これまでの地方軍とは桁が違う」宋江は、不安を隠せませんでした。
遥は、静かに地図を広げました。彼の目には、この大軍が梁山泊へ進む三つの主要な進路が、立体的な構造物のように見えていました。
「これは、我々の義の力を天下に示す、最大の機会です。梁山泊は、難攻不落の天然の要塞です。我々は、圧倒的な兵力の差を、科学の力で埋めます」
遥は、呉用と顧大嫂を呼び、極秘に進めていた計画の詳細を伝えました。
それは、現代の知識に基づく、火薬を応用した防御兵器の開発でした。
「この時代にも火薬はありますが、その破壊力は限定的です。しかし、硫黄、硝石、木炭の配合比率を正確に調整し、さらに構造を改良すれば、その力は数倍になります。」
遥は、顧大嫂が持つ商業ルートと、柴進の財力を使って、必要な原料を密かに集めさせていました。顧大嫂と夫の孫新は、遥の指示通り、梁山の地形で最も効果を発揮する簡易な地雷と、遠距離から投擲できる爆発物を大量に製造しました。
林冲と武松は、それぞれ精鋭を率いて、官軍の主力の進路である二つの隘路に布陣しました。
そして、運命の日。数万の官軍が、梁山泊の湖畔へと進軍を開始しました。老将は、兵力の差に自信を持ち、一気に攻め込もうとしました。
しかし、彼らが隘路に足を踏み入れた瞬間、遥の仕掛けた罠が火を噴きました。
ドォォン!
地中から轟音と共に砂塵が舞い上がり、兵士たちが次々と吹き飛ばされました。馬は暴れ、隊列は完全に分断されました。それは、官軍が想像もしていなかった、大地の怒りでした。
混乱に乗じて、林冲隊が側面から突撃しました。林冲の槍、武松の鉄拳が、恐慌状態に陥った官軍を打ち破ります。
さらに呉用の指示で、劉唐と魯智深が率いる遊撃隊が、後方の兵站部隊に容赦なく、遥の爆発物を投擲しました。
「これは、人間が起こせる戦ではない!悪魔の仕業だ!」
老将の軍は、戦う前に士気を完全に喪失しました。彼らは、姿の見えない、音と光の兵器に打ちのめされ、我先にと敗走しました。数万の朝廷の精鋭は、梁山泊の「科学の防衛線」の前に、一日の戦いで大敗を喫しました。
梁山泊は、この戦いで、未来の知識が、いかにこの時代の武力を凌駕するかを証明しました。
勝利の雄叫びが梁山に響き渡る中、遥は、静かに空を見上げました。
「これで、一時的にこの国は動けなくなります。今こそ、我々の義の理念と、新しい経済システムを、中華全土に示す時です」
語り手 呉用
わしは呉用。策謀には自信があったが、青龍の知恵は、わしの想像をはるかに超えていた。火薬。その素材は知っていても、遥はそれを「軍事兵器」へと進化させた。
あの轟音と閃光。数万の兵士が、一人の犠牲者も出さなかった我々の前に、塵となって敗走した。これは、天の技だ。
この勝利は、梁山泊を単なる「反乱勢力」ではなく、「新しい科学と義に裏打ちされた、未来の軍隊」として天下に知らしめた。
朝廷が持つ伝統的な権威と軍事力は、青龍の知識の前には、もはや何の意味も持たない。
わしらは、もはや歴史の再現ではない。わしらが、歴史を創っているのだ。
次回、この大勝利を受けて、梁山泊がさらに多くの英雄を迎え、全国統一のための次の戦略を始動させます。




