第十二話 英雄(えいゆう)大集結と銭(ぜに)の力(ちから)
官軍に対する圧倒的な初勝利は、梁山泊の噂を瞬く間に中華全土に広げました。各地で不当に苦しむ英雄や、義を求める者たちが、希望の光を求めて梁山へと集まり始めました。
特に、遙が以前から重要視していた経済と情報に長けた好漢たちが一挙に合流しました。
「神行太保」戴宗:一日千里を走破する驚異的な情報伝達能力を持つ男。遥の「飛信の法」と組み合わせることで、梁山泊の情報網は文字通り天下無双となりました。
「黒旋風」李逵:単純ですが、その武勇は鬼神の如く。彼の圧倒的な戦闘力は、梁山泊の武力をさらに厚くしました。
「小旋風」柴進:皇族の末裔という地位と、広大な人脈、そして莫大な財力を持つ彼が、正式に梁山泊の「財政顧問」として参画しました。
英雄たちが山塞に集まる中、遥は次の革命的な一手を打ち出しました。
「梁山泊が天下の義を担うためには、軍事力だけでは足りません。最も重要なのは、腐敗した朝廷を凌駕する経済力です」
遥は、柴進を前に、現代の金融と商業の知識を応用した計画を提案しました。
「宋の国は、塩や鉄といった物資の専売を朝廷が独占しています。我々が、民衆に安価で良質なこれらの生活必需品を提供できれば、民の心は完全に我々に傾きます」
遥は、梁山泊の豊富な水資源と湖の地の利を利用した、「湖畔商業都市構想」を発表しました。
統一通貨(簡易紙幣): 梁山泊内で流通する独自の信用に基づく紙幣を少量発行し、経済の活性化を促す。
物流ネットワークの構築: 顧大嫂の夫、孫新の力を借り、湖を利用した迅速な物資輸送網を整備。
良質な物資の安定供給: 柴進の財力と人脈を使い、市場価格よりも安く良質な塩や鉄、穀物を安定的に周辺地域に供給する。
呉用は、その緻密さと、経済が人心を掌握する力に、再び戦慄しました。
「青龍殿…これは、もはや単なる義賊の集団ではない。これは、腐敗王朝に対する『もう一つの国』の宣言だ!」
晁蓋は立ち上がり、集結した八人の主要な好漢たちの顔を見渡しました。
宋江、呉用、林冲、魯智深、武松、顧大嫂、柴進、そして新しく加わった戴宗と李逵。遥の智恵によって、彼らの才能は一つに束ねられ、恐るべき力となっていました。
「義の兄弟たちよ!」晁蓋が咆哮しました。「青龍の智恵、宋江の慈愛、林冲の武勇。この梁山泊には、天下を変える全ての力が揃った!我々は、もはや朝廷への反逆者ではない。我々は、民のための新しい時代を創る者たちだ!」
この日、梁山泊に集結した英雄たちの熱気は、湖畔の空を焦がすほどの炎となりました。遥がもたらした未来の知識と、英雄たちの熱い義の心が融合した瞬間、梁山泊は、歴史の悲劇を完全に断ち切り、新たな時代を切り開く、強大な「梁山泊イレブン」として、その真の姿を現したのです。
語り手 柴進
わしは皇族の末裔。財力も人脈も持っていたが、この腐敗した世に無力感を覚えていた。しかし、青龍の知恵は、わしの持てる全てを、「民を救う力」へと変えてくれた。
彼が示す経済の策は、単なる金儲けではない。それは、民の生活を安定させ、朝廷への依存を断ち切り、梁山泊を心の底から支持させるための、最も人情味のある策略だ。
水を清め、情報を一つにし、そして銭の力を義のために使う。この梁山泊は、本当に天の意のままに動いているのではないか。
わしは、この梁山泊の旗の下で、誇りをもって財政を預かろう。我々は、武力だけでなく、経済でも朝廷を打ち負かし、この国の未来を、民の手に取り戻すのだ!
次回、この大集結を受け、遥の指示による梁山泊の「天下戦略」が、いよいよ具体的に始動します。




