第十一話 奇襲(きしゅう)と敗走(はいそう):義の軍(いくさ)の初陣(ういじん)
梁山泊の勢力拡大と、生辰綱奪取の事実は、ついに都の朝廷を動かしました。高俅は、林冲が梁山泊にいることを知る由もなく、腐敗した地方官と結託し、精鋭の官軍を派遣しました。
遥は、青龍の名の元、冷静に敵の動きを分析していました。
「官軍の指揮官は、経験に乏しい地元出身の将です。彼らは、梁山泊を単なる山賊の集団と侮っている。この慢心こそが、我々の最大の武器となります」
遥は、呉用と共に、官軍が梁山泊へ進軍する経路を予測しました。彼らは、梁山泊の周囲に広がる湿地帯を利用した、緻密な罠を仕掛けました。
「林冲殿。武松殿。敵が最も油断する進軍路、沼沢地の入り口付近で、奇襲をかけます。重要なのは、敵を潰滅させることではなく、敵の士気を完全に打ち砕くことです」
遥の指示は、この時代では考えられないほど合理的でした。
まず、飛信の法により、周辺の村人たちに官軍の通過ルートと時間が事前に知らされました。村人たちは、遥が教えた簡易な道具を使い、沼沢地へ続く道を、夜陰に乗じて慎重に掘り崩しました。
そして決戦の日。官軍は、泥と化した道に足を取られ、隊列が乱れました。その混乱の頂点で、林冲が率いる精鋭部隊が、側面から奇襲をかけました。林冲の槍の冴え、武松の剛拳、そして魯智深の鉄杖が、官軍の指揮官と前衛部隊を瞬く間に打ち破りました。
「戦だ!一人も逃がすな!」劉唐が雄叫びを上げ、顧大嫂もまた、その武勇を存分に振るいました。
遥の指示は徹底していました。敵の士気が崩壊したのを確認すると、すぐに林冲に撤退の合図を送ります。
「追撃は不要です。我々の目的は、不敗神話を築くこと。深追いは、不必要な消耗を招きます」
混乱した官軍の残党は、沼沢地に足を取られ、重い武具を捨てて敗走しました。この初陣で、梁山泊は一人の犠牲者も出すことなく、官軍を完全に打ち破ったのです。
この勝利は、周辺の民の間に、梁山泊は「天の加護を受けた義の軍」であるという伝説を生みました。そして、この一戦は、梁山泊の持つ圧倒的な優位性を証明しました。
情報戦の勝利: 飛信の法による正確な情報と、村人によるインフラ破壊。
武力の優位性: 林冲の訓練と、武松・魯智深という絶対的な武力。
衛生と兵站の勝利: 負傷者ゼロという、この時代ではありえない結果。
宋江は、山塞で勝利の報告を受け、深く頭を垂れました。
「青龍。お前こそが、我々梁山泊の真の頭領だ。お前の智恵こそが、血で血を洗う戦の時代を終わらせる、光となる」
この勝利により、梁山泊の評判は一気に高まり、各地で不当に苦しむ、そして義を求める好漢たちの心に、希望の火が灯りました。
梁山泊の旗は、単なる反乱の象徴ではなく、「新しい時代と、新しい義の理念」の旗として、高く掲げられたのです。
語り手 林冲
私は林冲。都の禁軍教頭として、多くの戦場を見てきた。だが、あのような完膚なきまでの勝利は、見たことがない。
青龍の智恵は、戦いの始まりの段階で、既に勝利を決定づけていた。敵の進路を読み、泥に変え、隊列を乱す。まるで、戦場を上から見下ろしているようだ。そして、武勇を振るうべき場所と、引くべき時を的確に指示する。
彼の教えにより、我々は一人の犠牲者も出さなかった。これは、戦いの勝利以上に価値がある。
宋の腐敗した軍隊は、兵士の命を消耗品としか見ていない。だが、梁山泊の義は、命を尊ぶ。この根本的な違いこそが、我々を無敵にするのだ。
私は今、確信している。この義の道は正しい。梁山泊は、この時代を変える。青龍という智者の光の下で、私は義の剣を振るい続ける。
次回、この大勝利を受けて、さらなる英雄たちの合流が始まります。そして、遥の次の「チート」が梁山泊の運命を左右します。




