第十話 梁山(りょうざん)の奇跡と集結(しゅうけつ)の英雄たち
顧大嫂たちを迎え、梁山泊の勢いは急激に増していました。青龍こと遥は、組織の運営と並行して、梁山泊を難攻不落の「義の城塞」に変えるための「インフラ革命」に着手しました。
遥が最初に行ったのは、梁山泊の弱点である水の確保と衛生管理の抜本的な改善でした。彼は、湖畔の地形を利用し、現代の知識に基づく簡易的な濾過装置と貯水槽の建設を指示しました。
「梁山の水は、湖水のためそのまま飲めば疫病の元です。これを清潔に保つことこそ、軍の命を守る第一歩です」
林冲や劉唐たちは、遥の指示通りに土を掘り、石を積み上げました。何日かの作業の末、湖畔に湧き出した水は、見違えるほど透明で清冽なものとなりました。好漢たちは、その水の味と、遥の智恵がもたらした生活の変化に、心から驚き、深く感銘を受けました。
「これが青龍の智恵か。水を清めるだけで、これほどまでに心安らぐとは」晁蓋は感動しました。
そして、この遥の「革命」こそが、運命の英雄たちを梁山泊に呼び寄せる最大の磁力となりました。
その頃、梁山泊の湖の対岸には、二人の男がいました。一人は、顔にあざを持つ偉丈夫、魯智深。もう一人は、彼の親友である武松でした。彼らは、それぞれ不当な罪に問われ、各地を放浪していました。
「聞けば、この梁山泊には、血を流さずに生辰綱を奪ったという、恐ろしい智者がいるらしい。しかも、水さえも清めてしまうという」魯智深は、武松に話しました。
武松は、虎を倒したほどの豪傑でしたが、兄の無念を晴らすための孤独な戦いに疲れ果てていました。
「兄の仇を討ったところで、この腐敗した世は変わらぬ。だが、もし、その梁山泊の義が、本当にこの世の不義を正す力を持っているならば…」
二人が湖畔で思案していると、向こう岸から一艘の小舟が静かに近づいてきました。舟に乗っていたのは、宋江と、そして呉用でした。宋江は、遥の指示に基づき、彼らがこの湖畔に現れることを予期していたのです。
宋江は舟の上から、優しく語りかけました。
「魯智深殿、武松殿。長きにわたる放浪、ご苦労であった。我々梁山泊は、あなた方を心から兄弟として迎え入れたい。この梁山泊の義は、あなた方の武勇を、私怨のためではなく、万民の救済のために使いたいのだ」
魯智深は、宋江の熱い義の心に、胸の奥から湧き上がる熱いものを感じました。そして、呉用が差し出した書状には、遥の筆による、彼らがこれから辿るはずだった、さらなる悲劇的な未来の史実が記されていました。
「兄の無念を晴らしても、わしの命が尽きれば、この世は変わらぬ…」武松は、遥の示す未来の悲劇を読み、震えました。
宋江は、舟を降り、武松の手を力強く握りました。「武松殿。お前の命は、お前の兄のためだけでなく、この世の全ての弱者のためにある。共に来い。我々には、未来の悲劇を回避する智恵を持つ、青龍がいる!」
この言葉に、魯智深と武松は、長年の孤独と絶望から解放されました。彼らは、自分の力と義侠心が、この梁山泊でこそ、最も輝くと確信したのです。
「二竜の合流!」
魯智深と武松という、最強の武勇を誇る二人の英雄が、涙と共に梁山泊への合流を誓いました。遥の知恵によって清められた水のように、彼らの心もまた、濁りのない義の光に満たされたのです。
梁山泊の山塞には、林冲の武力、顧大嫂の才覚、そして魯智深と武松の圧倒的な存在が加わり、組織としての実力は一気に頂点へと達しました。
あとがき
語り手 武松
俺は武松。虎を倒し、兄の仇を討った。だが、俺の心は常に孤独と怒りに満ちていた。この命、いつ果ててもいいと思っていた。
だが、宋江殿に会った。そして、未来を知るという青龍の智恵に触れた。俺が、これから迎えるはずだった、さらに先の悲劇。それを知って、俺の心は打ち砕かれた。俺の武勇を、私怨だけで終わらせてはならない。
梁山泊で見た水。清らかで、甘かった。あの水のように、この梁山泊の義は、この腐った世の汚れを洗い流す力がある。
魯智深の兄貴と共だ。林冲殿や顧大嫂殿といった、真の義の兄弟たちと共だ。俺の拳は、今、万民の救済という、最も大きな義のために振るわれる。
次回、英雄たちの武勇と、遥の科学的な知識が融合し、梁山泊はついに官軍との本格的な衝突へと向かいます。




