70 その後のお話④
名実ともに王太子妃となってから2年が過ぎた。
「今日から、エヴィ殿下の専属近衛騎士になりました。ルイーズ=ファルストリアです。宜しくお願い致します」
と、私の友達でもあるルイーズが、1ヶ月程前から私の専属近衛騎士になった。もともと、ルイーズの父が団長を務める第二騎士団─近衛騎士になりたいと言っていたルイーズ。しかも、この若さで王太子妃の専属となった。どれ程の努力をしたのか……想像する事もできないけど、ルイーズが側で護ってくれると言うのは心強く、とても嬉しい事だった。
王太子妃となっても、外交の場に出る事は続いていた。
「エヴィ様なら─」
と、言ってもらえたりもする。それに、やっぱり他国の知識を得る事はとても楽しいし、勉強にもなる。その事に関して王妃陛下─お義母様はいつも“偉いわね!”と、褒めてくれるのだ。それもまた……とても嬉しい。
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「明日のゲルダン王国との交渉の場には、エヴィは出なくて良い」
2ヶ月程前、お義母様から『ゲルダン王国から、魔石のやり取りについて、新たな契約を結びたい─と、外交官が来るのだけど、エヴィとは多少なりとも縁があるから、同席してみる?』と言われ、知る事はできないかもしれないが、その後のリンディの事も気になっていたのもあり…『はい。お願いします』と答えた。
そして、いよいよ明日、そのゲルダン王国の外交官を迎えると言う日に、アシェルにそう言われたのだ。
どうやら、アシェルが反対するだろうと思ったお義母様が、今日の今日迄私が明日、交渉の場に同席する事を知らせていなかったそうだ。
「どうして駄目なんですか?」
「──相手国が、ゲルダンだからだ」
スッ─と、アシェルが私から左下に視線を逸らす。これは、アシェルにとって、少し後ろめたい気持ちがある時にする癖だ。
「俺は、もう、エヴィに傷付いて欲しくないと──」
そう言われれば、今迄の私なら『私の事を思って……』と、頷いていたかもしれない。でも──
アシェルは、その腹黒さで、私に対する悪意は前以て全て排除してから路を作るのだ。
“私は愛されている。護られている”
良いように捉えればそうなのだろう。でも、それでは駄目なのだと……ようやく気が付いた。
「───嫌です。同席します」
「え?」
私が拒否するとは思わなかったのか、目の前のアシェルは驚いている。
「今迄、私はずっとアシェルに護られて来た。それは、とても嬉しかったし、感謝しているわ。でも──私は王太子妃なの。護られているだけでは嫌なの。どんな嫌な事や大変な事があっても、それを自分の力で乗り越えて、胸を張ってアシェルの隣に立ちたいの」
そう言い切ると、アシェルは瞠目した後、フワリと微笑んだ。
「そんな事を言うエヴィが……可愛い」
「────はい?」
ーあれ?今の会話の何処に、可愛い要素があったの?ー
アシェルと一緒に過ごすようになって4年。少しずつアシェルの事を分かって来たつもりだけど、未だに分からないのが……アシェルの私に対する“デレスイッチ”。
本当に、全く分からないタイミングで、その“デレスイッチ”がオンになるのだ。そうなると、その場から近衛騎士のルイーズや、専属侍女のライラ達が、気が付けば居なくなっている─空気を読み過ぎてはいないだろうか?
「ひやぁ─っ!」
ひょいっ─と、私を横抱きに持ち上げるアシェル。
「なら、明日に備えて、早目に寝ようか?」
ニッコリ微笑むアシェルに、顔が引き攣るのは…仕方無い。
「アシェル?分かってるよね?私、明日は交渉の場に同席するからね?」
「分かってる。その交渉が、昼からだと言う事も分かっている」
「………ソウデスカ……………」
久し振りの爽やか腹黒笑顔のアシェル。最近では、そんなアシェルも……嫌いではない。抗うのは止めて、私はアシェルに身を任せた。




