62 (自称)我儘令嬢、落ちる
ベル=ジリルアン侯爵令嬢。
前回、使節メンバーに選ばれ、アラバスティア王国に来た時に、王太子であるアシェルハイド殿下に一目惚れをした。
国は違えど、自分は、アラバスティア現王妃の母国の侯爵令嬢だ。それも、外交官の長であるグウェイン=デパレイトは、その王妃の親戚に当たる。であれば、自分が如何に優秀な外交官であるか─を見せれば、殿下の婚約者も夢ではないと思ったそうだ。なのに──
そこで耳にしたのは、“王太子には、お気に入りの令嬢が居る”だった。
早速その噂を調べてみると、そのお気に入りは外交のお手伝いをしている学生で、魔力無しの令嬢と言う事が分かった。
何もかもが、自分のほうが上なのに─と、思ったベルは、今回の来国で私と会う事を知っていた為、釘を刺してやろうと2人で話す機会を窺っていたところ、デパレイト様からの提案で2人きりになり──あの発言となったそうだ。
結果、滞在期間の一週間の間、ベル=ジリルアンは割り当てられている客室からの出入り禁止となり、自国に戻った後は、外交官から籍が外されるそうだ。
そして、長官であるデパレイト様からは、ひたすら謝罪を受けた。『私も、良い勉強になりましたから』と伝えると『流石は未来のオウヒですね。懐が深いですね』と、微笑まれた。
“オウヒ”
“王妃”じゃないよね?ミュズエル国には、違う意味の“オウヒ”と言う単語があるのかもしれない────
ふと思い出したのは、殿下とベルが並び立った姿。素直にお似合いだな─と思った。まぁ、彼女は内面的には殿下─王太子妃、王妃には全く向いていなかったけど。
彼女がアシェルハイド殿下には不釣り合いだ─と思った時、どこかでホッとした自分が居た。それに、気付かないふりをしたけど、2人が並んでいる姿を見て胸がツンとしたのも確かだ。
「ゔ───やっぱり、私って……そうなの??」
「何がだ?」
「ひやぁーっ!?」
1人、悶々としながらも、とある仮定に辿り着いた時、後ろから声を掛けられた─この声は………
「でっ………アシェルハイド殿下、ビックリするので、急に声を掛けるのは止めてもらえませんか!?」
「いやいや、普通に声を掛けただけだろう?それに、もう3回程声を掛けた後だぞ?エヴィが気付かなかっただけだろう」
「ゔっ…それは…すみませんでした………」
「それで?何が“そう”なんだ?」
アッシュグレーの長めの髪を、後ろで緩く束ね、左サイドに短めの髪が垂れている。漆黒の瞳は、緩く細められて、真っ直ぐに私を見つめている。
ーあぁ、やっぱりそうなんだー
その瞳を見て、ストン─と何かが落ちた。
「ん?」
首を傾げた殿下。左サイドに垂れている髪もサラリと動く。その一つ一つの動きでさえ綺麗だな─と思ってしまう。
「…………」
ー本当に……何でこうなった??ー
全力で逃げているつもりだったのに。気が付けば……身動きができない状態になっていた。それにまんまと嵌ってしまったのが……私なんだろう。
「我儘令嬢なのに……チョロ過ぎる………」
「ん?」
何が?─と、殿下が言ってくるだろうその言葉を聞く前に、私は目の前の殿下に視線を合わせる。
「あの……卒業式のお話ですけど……あの頂いたピアスを着けさせていただきます」
「──え?」
頑張って伝えたにも関わらず、殿下は一言発しただけで固まってしまった。あれ?ひょっとして、あのお願いは冗談だった?その冗談を私が真に受けただけ??
「あれ?えっと…着けない方が良かっ──」
“良かったですか?”─と訊く前に、気が付くと、私は殿下の腕の中だった。
「エヴィ…ありがとう」
今迄聞いた事が無いような優しい声で、殿下が呟いた。
そんな2人を、少し離れた位置からにこやかに眺めている影が二つ。
『クリフォーネ様の、思った通りになりましたね?』
『ふふっ。グウェインも、うまい具合にあの娘を処理できたでしょう?』
2人を眺めていたのは、アラバスティア王国の王妃─クリフォーネと、ミュズエル王国外交官の長官─グウェイン。2人は、祖母同士が姉妹の、所謂、再従姉弟である。
クリフォーネは、息子であるアシェルハイドが、初めて自ら欲しいと、自分の妃にと望んだ令嬢─エヴィを、どうしても逃したくない。
グウェインは、とても優秀ではあるが、外交官としては欠陥があり、爆弾を抱えるベルをなんとかしたいが、なかなかボロを出さない為にどうする事もできず困っていた。
そんな2人の利害が一致したのだ。




