61 ベル=ジリルアン
ミュズエル王国の女性外交官は、今回は二度目の来国との事だった。
『アラバスティア王国は、今の国王陛下になってから、女性も働きやすくなったと聞いて、凄く興味があって、ずっと志願していたんです』
どうやら、この国に来る為に外交官になり、慣例となっているこの使節メンバーに入る為に毎回志願していて、前回、ようやくメンバーに選ばれ、今回二度目となるメンバー入りを果たしたそうだ。志願する人数は少なくはなく、それなりの倍率を経て選ばれているらしい。
と言う事は、この女性外交官─ベル=ジリルアン─は、優秀な外交官の1人と言う事なんだろう。
ミュズエル王国の侯爵令嬢で、外交官である自分に誇りを持ち、今の所、婚約者は居ない。侯爵令嬢と言っても、上に兄と姉が2人ずつ居て、比較的自由に育てられたらしく、結婚に至ってもある程度は自由にして良いと言われているそうだ。
暫くの間、アシェルハイド殿下を含めて6人でお喋りをした後、『同じ女性の外交官同士で、ゆっくり話をすると良いよ』と、デパレイト様は言い、4人はガゼボから去って行った。
私もこれからの事を考えて、女性外交官目線の話を聞いてみたかったから丁度良かった─と思い、口を開きかけた時
「ねぇ、あなた、魔力無しって本当なの?」
「え?あ…本当…ですけど?」
「ふーん……貴族で魔力無しで、外交官目指してるってさぁ……何?家から追い出された感じ?『魔力無しは要らない』とか言われて。そうでしょう?」
「…………」
さっきまでの謙虚?な態度は何処へやら─だ。
ーこの人も、リンディタイプかー
軽く溜め息を吐く。
「え?何?何で溜め息?あぁ、図星だったのね。あなた、外交の仕事、舐めてない?今は、若いからチヤホヤしてくれるだけだから。貴族令嬢だかなんだか知らないけど、どうせ親のコネ?で無理矢理入ったんでしょう?それで、アシェルハイド様に近付いたりしているんでしょう?でもね、それ、無駄だから。アシェルハイド様が、あなたみたいな魔力無しを選ぶ事は無いんだから。それに…地味だし。アシェルハイド様には、しっかり自立していて、見目も良い私が相応しいと思わない?」
ふふっ─と嗤いながら、つらつらと私を貶める言葉を吐き続けるベルとか言う女性外交官。私が反論しない事を良い事に、意気揚々と吐き続けている。
確かに、殿下と並び立った2人は、絵になる様なお似合いな2人だった。でも、この目の前に居るベルとか言う女性外交官は………
アシェルハイド殿下には不釣り合いだ。
「挨拶をされていませんので、私も“あなた”と呼ばせていただきますが──」
「はい?」
キッ─と、目を釣り上げて睨んで来るけど気にしない。
「あなたは、今、ミュズエル王国を代表してこの国に来ていると言う事を理解していますか?あなたの発言は、例え、職務時間外であっても、外交官として来ている限りは、その国の言葉だと捉えられます。ミュズエル王国は、“魔力無し”を下卑して良い対象としているんですね?我が国、アラバスティアでは違います。“魔力無し”を下卑したり虐げたりすると、罰せられます。それを……ご存知ではありませんでしたか?失礼。外交官であるなら、ご存知ですよね?その上での発言ですよね?」
年下の、しかもまだ学生の魔力無しに言い返された事が、余程気に入らないのだろう。目を更に釣り上げ、フルフルと怒りで身体が震えている。
睨まれても、全く怖くはない。本当に怖いのは“無関心”だから。
「生意気な子ね!あなたこそ、賓客の私にそんな事を言って、ただで済むと思っているの!?無礼だわ!きっと、アシェルハイド様なら、私の言う事を───」
「──聞く訳が無いだろう」
ふいに後ろから声が掛けられ、驚き後ろを振り返ると、そこには殿下とデパレイト様と長官が居た。
「え?」
ベルとか言う女性外交官─もう“ベル”呼びで良いよね!─は、一瞬驚いた顔をした後、今度は悲しげな顔をしながら、殿下の側へと駆け寄る。
「アシェルハイド様、彼女が私に──」
「無礼を働いたのは、エヴィではなく、ベル嬢……お前だろう?何を言っても無駄だ。私達はずっと、2人の会話を聞いていたからな。それと、私はお前に名前呼びを許した事は無い筈だが?」
「─っ!申しわけありません!」
頭を下げて謝罪をするベルと殿下の間に、デパレイト様が割り込み、ベルを見据えたまま口を開いた。
「ベル、君には、これからの外交官としての働きに期待をしていたが…残念だ」
「それは…どう言う……」
どうやら、このベルは、外交官の務めをきちんと理解しているか、上からの目が無くとも、きちんと対応できるか、その相手の国を理解しているか─と、試されていたようだ。
ベルは───“アウト”だ。




