45 お花畑
*引き続き、アシェルハイド視点となります*
どうやら、闇の精霊殿は、全て把握しているようだ。
「しかし、光の魔力と言うのは有り難いモノだが、厄介なモノでもあるな……。幼少期から発熱で苦しみ、乗り越え切る前の“最後の審判”によっては命を落とす……」
ある意味、残酷だな─とも思う。
光の魔力持ちが生まれると、周りは喜ぶかもしれないが、親にとっては複雑な思いがあるだろう。
「親からすれば、子を失うかもしれない恐怖はあるかもしれないけど、その“最後の審判”で光の魔力を選ばなかった者はね……確かに“死”を迎えてしまうけど、その魂は転生へと向かうのよ。そして、必ず幸せになるように、数多の精霊達が祈りを込めて転生させるの」
ーえ……そんな重大事項を、人間が知ってしまって良いんだろうか?ー
嫌な汗が背中を流れていく。
「あ、この話をするのは、ちゃんと光にも許可を得ているから大丈夫だけど、これを記録に残す事はしないように。今回は、色々イレギュラーがあって、エヴィの事もあったから、殿下にだけは話しておこうって事になっただけだから」
「分かった」
ーよし、取り敢えず、“全て知ったからには死を”とは、ならないようで良かったー
「そんな感じで、久し振りにエヴィが私を呼んでくれたと思ったら、魔力が枯渇寸前だったのよ。本当に、アレには驚いたわ。それに、相変わらず親達はクズじゃない?もう、いっその事、エヴィに私の魔力を与えて魔力で繋げておこうと思ったのよ。そうすれば、呼ばれなくても側に居られるからね。エヴィと居ると、退屈しなくて良いしね」
ー“退屈しなくて良いしね”─確かに、エヴィと居ると退屈する事は……ないな。本人には言えないがー
「で?お花畑はどうするの?もう、決定って事で良いのよね?」
「勿論。お花畑は予定通りにゲルダン国の王弟の元に嫁いでもらう。一纏めにして」
「あら、もう準備は調っているの?」
「ウチの宰相は、舐められた分はキッチリと倍返しするタイプだからね」
本当に、ドリューの仕事は早かった。しかも、一纏めで処理してしまっていた。やはり、ドリューは怒らせてはいけないと、改めて思った。ブレインにも、どうか見倣って欲しいところだ。
「今から、お花畑の所へ行って最後通牒をして来る。エヴィの事は……宜しく頼む」
「ふふっ。頼まれなくても、私はエヴィの為にしか動かないわ。こちらこそ、アレ達の事、宜しくお願い致しますわ、殿下」
“ニヤリ”と、音が聞こえそうな程の黒い微笑みを浮かべた後、闇の精霊殿は、エヴィが眠っている部屋へと入って行った。
*リンディに充てがわれている客室にて*
「王太子殿下!何故、私が部屋に閉じ込められないといけないんですか!?」
俺が、お花畑の部屋に入るなり、挨拶も何もなく、いきなりキーキーと喚きだした。それも、悪びれる事もない。
「『何故』とは?本当に分からないのか?」
「何をですか!?私は、ただ夕食会で食事をしていただけじゃないですか!」
脳内お花畑は、都合の悪い事は全て消去されるのか?
「リンディ嬢……私が、何も知らないとでも思っているのなら大間違いだ。その上でもう一度訊いてあげよう。何故こうなったのか、本当に分からない?」
「──っ!だって……おかしいでしょう!?光の魔力持ちの私が、王族とは言え違う国に行かされるのに、役立たずのエヴィは殿下と仲が良いし、確かに、私の光の魔力は弱いから、殿下の婚約者にはなれないと理解してますけど、殿下……王子が駄目なら、順番にいけば、私の婚約者として相応しいのは、やっぱりブレイン様しかいないですよね!?だから───」
「だから、既成事実でも作ろうとして、媚薬を盛ったのか?」
「っ!?」
お花畑はヒュッと息を呑み瞠目している。
「何度もやらかす馬鹿を、放ったらかしにしていると思っていたのか?お前が、ブレインに媚薬を盛った事は既に知っている。だから、お前をここに連れ戻したんだ」
「……あ………」
「私は言った筈だ。今後は他者を貶めるような事はしない事。訓練は怠らず真面目に取り組む事が最低条件だと」
「わたし……」
「ただ、今回の事はエヴィが被害を被っただけで、幸いにして私達以外には気付かれていないから、今回の事は、『ただ、エヴィが体調が悪くなったから』と言う事にできた。表向きはそれで良しだが………私個人としては、もうお前を赦す気は無い。お前の選択肢は二つだ。先ず、お前は、今年度で学校を卒業してもらう事は決定事項だ。選択肢の一つ目は、以前話していた他国の王族と婚姻すること。二つ目は、この国で私が選んだ者と婚姻することだ」
「他国の王族の方とで決まっているわ!国内の者となんて、碌な縁談ではないですよね!?」
「それで、良いのだな?」
「ええ、それで良いわ。こんな国……もう私は知らないわ!後で、光の力を求められても、私は知らないからね?」
ー本当に、お花畑の馬鹿は扱い易くて笑えるー
俺が、マトモな縁談を組む筈が無いと分かっているのに、他国の王族と言うのは信じている。いや、本当に王族なのだが……。兎に角、言質は取った。
「それでは、かの国の王族と話を進めておこう。分かっているとは思うが、最低条件は必ず守るように」
守らなくとも、エヴィのお陰で失う事はないだろうが、伝える気は無いし、教えてやる義理もない。せいぜい、その最低条件を守っておとなしくしてくれ─と思いながら、俺はその部屋を出た。




