42 夕食会④
*アシェルハイド視点*
夕食会が執り行われるホールには、予定通りエヴィをエスコートしながら入場した。大きな夜会では、貴族が名前を読み上げられながら爵位順に入場し、最後に王族が入場するが、今日はラフな夕食会の為、爵位関係無く入場している。
エヴィはジェマ嬢に意識が向いていて、全く気付いてはいなかったが、俺達が入場した時、ホール内は一気にざわめいた。デビューもしていない令嬢を、王太子がエスコートしていたから。その上、俺の色のピアスを身に着けて。
黒色の髪や瞳はあまりなく、ここ数年は、現国王陛下である父上と俺が黒色の髪と瞳である為、夜会や公の場では“黒色の宝石は身に着けない”と言う暗黙のルールがある。おそらく、エヴィは知らないだろうけど。
そして、今、本人だけが気付いていないが、その黒の色をエヴィが身に着けているのだ。ただ、俺もエヴィもまだ成人前で、何の発表もされていない為、表立って何かを言って来る者は居ないだろう。
これまた、エヴィ本人は知らないだろうが、エヴィは、学校では、令息達からは密かに人気がある。一応光持ちの妹が居て、異母姉ではあるが、次代アンカーソン公爵夫人になる予定の姉が居る。そして、エヴィ本人は成績優秀で2年生からは生徒会入りをしている。その為、リンディ嬢よりもエヴィへの釣書の方が多いそうだ。ただ、それらの釣書を尽く跳ね除けているのがブルーム伯爵夫妻。リンディ嬢の婚約者が決まらないままで、相当イライラしているようだ。
ー自分の娘の管理もできていないクセにー
それでも、ようやく他国ではあるが、王族と縁続きになれるかも─と、最近では機嫌が良いらしく、羽振りも良くなっていると報告があった。その縁談がどうなるかは……今日のこの夕食会次第になるだろう。
兎に角、ホールに入場した後は、俺はエヴィとは一緒に居る事はできない為、この夕食会でエヴィに虫が付かないようにと、あのピアスを用意したのだ。後でエヴィには……怒られるだろうが、それはそれで可愛いから問題ない。
そして、いつもとは違う自由な夕食会が始まった。
食事が始まり暫くすると、レイラーン国の外交官が父上に挨拶をしにやって来た。父上の横で話を聞きながらも、視線はエヴィに向かっている。エヴィは、ジェマ嬢と楽しそうに食事をしていて、今のところは、リンディ嬢も静かにしている。
それからも、父上には次から次へと色んな者達が挨拶をしにやって来ていた。
エヴィが席を立ち、ジェマ嬢と共にデザートを取りに行く。
桃が好きだと言うエヴィの為に、桃を使ったデザートをいくつか作ってもらった。決して……権力の悪用ではない……筈だ。
「ん?」
ふと視界に入ったのは、リンディ嬢が手にしているグラス。デザートを取った後、それを支給係に自分のテーブルに持って行かせ、自分はグラスを手に持って席へと向かっている──が、二つのうち、1つのグラスに違和感を覚えた。
ーついに、リンディ嬢が何かやってくれるのか?ー
ニヤリ─となっている口を、自身の手で覆って隠す。どうなる?と目を離さず見ていると、エヴィが偶然を装って動いた。その拍子に、違和感があった方のドリンクが零れてエヴィに掛かってしまったようだ。エヴィの周りの席の者達はデザートを取りに行ったり、違う場所で話をしているようで、あまり注目を浴びる事もなく、騒ぎにもなっていないようだ。残念なような……良かったような……と思いながら見ていると、ジェマ嬢とブレインがエヴィのフォローをする為に動き出したが、リンディ嬢の顔は怒っているような困ったような顔をしている。
ーリンディ嬢は、何をした?ー
ブレインがエヴィに話し掛けた後、エヴィがジェマ嬢に顔を埋めるようにしがみついた。そして、ブレインが俺の方へ振り返った──その顔が、あまりにも険しい顔で……父上に視線を向けると、父上も気付いていたようで、コクリと頷いてくれた為に、俺はそっと席を立ち、エヴィ達の元へと向かった。
何事もない。ただ、側近のブレインの元へ行くだけ──と、焦る気持ちを抑えて普段通りに歩いて行く。数人から挨拶を受けつつ、少しずつエヴィの元へと歩み寄って行く。
ようやく辿り着いた時、ブレインが俺の耳元で呟いたのは
「媚薬を仕込まれていたようです」
表情を変えずに居られたのは、王太子教育の賜物である。チラリとエヴィに視線を向ければ、ほんのりと顔を赤らめて、体が少し震えている。
ー祓えなかったのか?ー
理由は分からないが、悪いモノをエヴィが祓う前に、ソレを口にしてしまったと言う事だ。
「お花畑を……部屋へ連れ戻して閉じ込めておけ」
「承知しました」
怒りで震える自分を抑え、ブレインに指示を出した後、俺はジェマ嬢の許しをもらってからエヴィを抱き上げた。
「──っ!アシェル……ハイド殿下……っ」
「エヴィ、今は黙って顔を隠しておけ、良いな?」
「──っ」
エヴィはコクリと頷き、そのまま俺の胸に埋めるようにして顔を俯かせた。
それでも、何かを必死に耐えるように自分の両腕を握りしめ、俺にしがみつく事はしなかった。




