39 夕食会①
*アシェルハイド視点*
「お前は、こうなると思って、態とやっただろう?」
急遽、母上が乱入して来た3人でのお茶の時間を終え、エヴィを帰りの馬車になんとか乗せて見送り、俺の執務室に戻って来ると、挨拶もなしにブレインが悪態をついて来た。
「何の事だ?」
暫く沈黙が続いた後、はぁ───と、ブレインは長い溜め息を吐いた。
「何かして来る……いや、させるつもりですよね?」
「………」
「エヴィ嬢の精神的なサポートとして、ジェマも参加するんですよ。そこで揃って何もない─なんて有り得ませんからね」
「あ、ブレインも気付いたのか?」
「そうですね。ジェマしか見ていなかったので……気付くのが遅くなりましたけど……」
そう。エヴィが我儘になるのは、ジェマ嬢が関わった時が多い。俺が違和感を感じる何かがある時も、殆どがエヴィとジェマ嬢とリンディが絡む時だ。俺の側近のロドヴィックやミリウスは直ぐに気付いていたけど、ブレインはジェマ嬢しか目に入っていなかったようで……
「“恋は盲目”とは、よく言ったモノだな。良い勉強になったよ。ありがとう、ブレイン=アンカーソン。これからの巻き返しに期待しているよ?」
とニッコリ微笑めば、「分かりましたよ!ちゃんと備えておきますよ!」と、そのまま執務室から出て行った。
「さて……お花畑は何をしてくれるかな?」
*レイラーン国外交官との夕食会当日*
「王太子殿下、エヴィ様の支度が整いました」
女官からの知らせを受け、俺はエヴィのいる客室へと向かった。明日は学校が休みな為、夕食会後は、その客室に泊まる事になっている──事を、うっかりエヴィには伝え忘れてはいるが……。
「アシェルハイド殿下、本当に、ありがとうございます」
俺が贈ったワンピースを着ているエヴィは、グッとくるモノがあった。エヴィには、寒色系の色にシンプルなタイプの服が似合う。
「エヴィ、ちょっと、ここに座ってくれるか?」
と、ドレッサーの椅子ではなく、部屋の中央にある椅子に座らせて、エヴィに付けている女官に目配せをして準備をさせる。
「仕上げはこれだ」
その女官に、エヴィの耳に俺が準備をさせていたピアスを着けさせた。
「えっ!?ピアス!?そんな物までいただけません!」
予想通り、エヴィは全力で遠慮するが─
「エヴィの為に用意して、今、もうエヴィが着けてしまったから、エヴィが『要らない』と言うなら、処分するだ──」
「あーっ………有り難くいただきますから!」
ーうん。エヴィも、本当にある意味チョロい。そのチョロさは……可愛いから許そうー
「なら良かった。では、そろそろ行こうか?」
「あ、ちょっと待って下さい。どんなピアスか鏡で──」
「エヴィ様、少し時間が迫って来ておりますので、確認はまた後程の方が宜しいかと」
「えっ!?そうなんですか!?すみません、そうします。アシェルハイド殿下、今から、宜しくお願いします」
「あぁ、こちらこそ宜しく」
流石は母上が選んだ女官だ。ちゃんと理解しているようだ。チラッと視線を向けると、その女官はニッコリと微笑んでいた。
******
「エヴィ!」
「お姉様!」
夕食会が執り行われるホールに入ると、既にブレインとジェマ嬢が来ていた。招待客はそれ程多くはないが、成人前の令嬢が1人だけと言うのも心許無い─と言う事で、出席する王太子の側近のブレインと共に、ブレインの婚約者であり、エヴィの姉であるジェマ嬢も参加する事になったのだ。
2人は本当に仲が良く、今もとても嬉しそうに笑い合っている。
ーあの、訝しそうな顔も可愛いが、やっぱり笑顔のエヴィも可愛いなー
顔が緩まないようにエヴィの様子を見ていると、ブレインが小声で話し掛けてきた。
「アレも参加ですから、浮かれ過ぎないように十分に注意して下さいね?」
「分かっているが、それはそのままお前に言い返しておく。お前も浮かれ過ぎるなよ?」
ブレインにとっても、ジェマ嬢をエスコートしての夜会は初めてだ。実は、(ブレインと相談して)エヴィとジェマ嬢のワンピースは、色違いでお揃いのモノを準備したのだ。エヴィにはスカイブルーを。ジェマ嬢はブレインの瞳の色の青。それに、エヴィには無いが、ブレインとジェマ嬢の髪色である金色の糸で刺繍が施されている。ジェマ嬢が身に着けているネックレスとピアスは、勿論青色の宝石だ。
「よく、エヴィ嬢があの色のピアスを着けてくれましたね?」
「…………だな……」
「え?何です?その間は……って、まさか、エヴィ嬢本人は気付いてな……まさか……見せてない!?」
唖然とした顔で俺を見ているブレインには何も答えず、ただただ人好きのする笑顔を向ける。
「アシェル……本当に……お前は……。エヴィ嬢には、激しく同情しますよ……」




