22 進級
新学期を迎え、私は2年生に。姉達は最終学年である4年生になった。
姉とアンカーソン様は、この1年で更に仲を深めたようで、いつ見ても2人笑顔で向き合っている。
ー相変わらず、私に対しては厳しいけどー
この1年で分かった事と言えば──
食事を介して、色々と狙われる事が多いと言う事。その狙いが、明らかに王太子殿下である事が多い。ただ、それらは毒とまではいかず、“口にしたらお腹壊すかな?”程度のモノだ。それに、薬品等を使って─と言うよりは、食材を(悪い意味で)活かしたモノが殆どだ。
私に視える悪いモノも、よく視るとそれぞれに色が微妙に違う事にも気付いた。色が濃くなればなる程、その毒性が強くなる。食材が腐ってる?みたいな時は、薄い緑色だった。薬品等を使った毒になると、本当に黒い。あまりに黒過ぎた時には本当に驚いた。それは……リンディからもらった、リンディが学校の実習で作ったとか言うクッキーだった。勿論『ありがとう。寮に帰ったら食べるわ』と言って持って帰り、そのままゴミ箱へシュートして、翌日は元気だったけど学校は休んだ。
「エヴィが、休んでるって聞いて心配で……」
と、目を潤ませてはいるが口元がニヤけているリンディが、その日の放課後に寮の私の部屋へとやって来た。これが癒しを施す光の魔力持ちとは……神様?女神様?は、色々と間違ってない?と訊きたくなってしまう。
そのリンディが帰った後、ルイーズとメリッサもお見舞いに来てくれた。それも、体調が悪い私でも食べれそうな物を─と、何種類かのスープを持って来てくれたのだ。嬉しくて有り難い気持ちの反面、申し訳無い気持ちにもなってしまい、心の中でソッと謝った。
そのルイーズとメリッサが帰った後には、姉も来てくれた。姉は、私が好きなフルーツの桃を持って来てくれた。
「この寮は女性専用で、男性は家族や婚約者でない限りは入って来れないでしょう?それで、これを、アシェルハイド様から預って来たの」
と、殿下から赤色のカーネーションが一輪。
ーそう言えば、私、花を貰うのって…初めてだー
「キレイ………」
暫く眺めた後、「さぁ、萎れてしまう前に、お水に挿しましょうね」と、ライラが一輪挿し用のガラスの花瓶に飾ってくれた。
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翌日、登校すると、リンディがギョッとしたような目で私を見た後、サッと表情を綻ばせ「元気になって良かったわ」と、駆け寄って来た。
ーあぁ、本来なら、1日では治らないようなモノを仕込んでいたのねー
何日か寝込むと思っていた私が、1日も経たずに学校に来たら、そりゃあ驚くよね?
「あ、エヴィ、元気になったのね?良かったわ」
「エヴィ、おはよう。一緒に教室に行こうか」
「メリッサ、ルイーズ、おはよう。えっと……リンディ、私は行くわね」
腕に抱きついていた、リンディの腕をやんわりと外して、私はメリッサとルイーズの元へと駆け寄った。
「彼女のあの行動……流石よね?見事に“姉を心配してました。元気になって良かったわ”って、思ってるアピールは成功したんじゃない?」
「メリッサ、ハッキリ言い過ぎじゃないか?ふふっ─」
「ルイーズだって、そう見えたから笑ってるんでしょう?」
「ふっ─確かに……成功かもね?」
と、3人で笑いながら教室へと入って行った。
その日の放課後は、生徒会の集まりがあった。
「───エヴィ嬢…………元気になって……良かった」
「えっと………ありがとう……ございます?」
疑問形になってしまったのは仕方無いと思います。
授業が早目に終わり、そのまま生徒会室へとやって来た。まだ誰も居ないだろう─と思っていたけど、アンカーソン様が居た。アンカーソン様だけ居た。
私が休んでいた事は、姉から聞いたのだろう。一応、回復して良かった─と言ってもらえたけど、たっぷりとあった間が、アンカーソン様と私の距離を表しているようで、素直にお礼が……言えなかった。
まぁ、アンカーソン様にしたら、“自分の婚約者に我儘を言って困らせている魔力無しの妹”だもんね。しかも、アンカーソン様は、結構……いや、大分、姉の事が好きだから、尚更腹が立ってるんだろうと思う。“恋は盲目”と言うらしいけど、姉を大事にしてくれるなら、嫌われていても良いか─と思っている。仲良くできれば、本当はその方が姉も安心するとは思うけど…。
何となく気不味い?雰囲気になり掛けた時、姉と共に王太子殿下と他の生徒会の役員達が部屋へと入って来た。
“イズライン=アラバスティア”
私と同じ2年生で、第二王子。
“ロドヴィック=オルテウルス”
第一騎士団長である、オルテウルス伯爵の次男で、王太子殿下の側近の1人。
“ミリウス=ヨルンハイド”
魔道士副団長であるヨルンハイド侯爵の次男で、彼もまた、王太子殿下の側近の1人だ。
“ニア=ウォルター”
ウォルター伯爵の嫡子であり、姉の友達の令嬢。
これが、今年の生徒役員の顔ぶれである。




