10 学校
貴族の令息令嬢は、15歳か16歳になると学校に通う事になる。卒業は18歳で、その卒業と共に成人と見做され、社交界デビューとなる。
そして、ついに姉のジェマが15歳となり、学校へ通う事になった。婚約者であるブレイン=アンカーソン様も同い年なので、一緒に通えると嬉しそうに言っていた姉は可愛かった。ただ、我が家から学校へは馬車で1時間程で行けるのだが、姉の伯父(フリージア様の兄)の邸が学校から10分程の所にあり、「ウチから通わないかい?」と、声を掛けてくれたらしく、姉はそのローアン侯爵邸から学校に通う事になった。
離れて暮らす事は寂しいけど、姉にとっては良い事なんだと自分に言い聞かせて、私は姉を笑顔で見送った。
「ジェマ様が居なくなっても、私が居ますからね!」
と、ライラが言ってくれたように、私は相変わらず父や母から見てもらえる事もなく、リンディにはチクリと言われる事もあったけど、その度にライラが私を外に連れ出してくれたりして、心が痛む事がなく過ごす事ができた。
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そして、更に2年が経ち、私とリンディも学校へ通う年を迎えた。
「リンディは、王城で魔法の指導を受けているから、時間が無駄にならないようにと提案されたの」
と、母が嬉しそうに、私に教えてくれたのは─
学校から近い王城の客室をリンディにあてがい、そこから通学すると言う事だった。
「ひょっとしたら、王太子殿下との婚約も……」
と母は更に嬉しそうに呟いた。
因みに、私は学校の寮に入る事になっている。
「その方が、エヴィも楽でしょう?」
確かに、毎日往復で2時間も馬車に揺られるのは辛い。母達の本音は、“エヴィには構ってられないから”だろうけど。兎に角、この邸で過ごすよりは、寮生活の方が私にとっても嬉しい事に変わりはないから良いけど。
それに、侍女を一人連れて行けると言う事で、ライラも連れて行く事ができるから、嬉しい事尽くしだ。
そうして、リンディが王城へ、私は寮へと引っ越しをする前日の夜は、家族5人でお祝いを兼ねた夕食になった。
そこには、相変わらずリンディの好きな物がズラリと並んでいた。どうやら、サイラスも同じ様な好みらしい。
勿論、最後に出て来たのは、ベリーたっぷりのパイ──だけど、ライラがこっそりと、見た目はベリーパイと変わらないけど、中身が私が大好きなカスタードたっぷりのパイを私に用意してくれていた。チラリとライラに視線を向けると、エメリーも笑っていたから、エメリーとライラが気遣ってくれたんだと言う事が分かった。
ーうん。私は大丈夫だ。ありがとうー
心の中で囁いてから、私はそのカスタードパイを食べた。
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「エヴィ!」
「お姉様!?」
学校の寮へとやって来た日。
私にあてがわれた部屋で、ライラと荷物整理をしていると、姉が部屋にやって来た。
「エヴィ、元気だった?前の休みには帰れなかったから……」
「はい。私は元気でしたよ!お姉様も元気そうで良かったです」
姉と抱き合って再会を喜んでいると「お茶を淹れますね」と、ライラがお茶を淹れてくれて、その日は久し振りに姉とゆっくり話をした。
*その頃の王城にて*
「リンディ嬢、ようこそ。やっぱりここに来たのはリンディ嬢だけなんですね」
「はい。あの……すみません。折角声を掛けていただいたのに」
シュン─と切なそうな顔をしながら謝るリンディ。いかにも儚げな少女である。
「いや……リンディ嬢が謝る必要はないですよ。それに、義務ではないですからね。それに、エヴィ嬢が断わる事も自由ですから」
「母親である私からも謝罪を。折角、エヴィもリンディと一緒に王城からとお誘いして頂いたにも関わらず、寮生活を希望して、すみませんでした」
「ブルーム伯爵夫人。先程も言いましたが、義務ではありませんから、気にしないで下さい。それに、私も国王陛下も怒っていませんから」
「ありがとうございます。アンカーソン様」
王城で、リンディ達を出迎えたのはアンカーソン公爵だった。ジェマの婚約者ブレインの父親であり、宰相でもある。
リンディを王城の客室で預かる─と言うのは、早い段階から決まっていた。光の魔力持ちは、稀な存在故に色んな意味で狙われる事があり、その身を護る為にも都合が良かったからだ。勿論、光の魔力の訓練もあるからと言うのも事実だった。
ただ、王城に一人とは寂しいだろうと言う事で、『双子の姉のエヴィ嬢と一緒に来てはどうか?』と言う話になったのだ。
『一度、本人に訊いてみます』とブルーム伯爵夫人に言われて返事を保留。本人に確認後に言われたのは
『王城よりも、寮の方が良い』だった。
エヴィ嬢は馬車もあまり好きではないらしく、毎日の通学が苦痛になるから、寮に入りたい─と。確かに、義務では無いが、コレが我が息子の婚約者ジェマの妹なのか─と思うと、少し頭が痛くなった。そのせいか、ブルーム伯爵夫人が呟いた事を聞き逃してしまったのだった。
「───魔力無しなんて恥ずかしい子を、王城には連れては来れないわ」




