表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)  作者: 緋色牡丹
第二章「残り火の街」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/46

第三十七話「冒険者ギルド・残火の灯≪エンバートーチ≫」

 金髪碧眼の美少女エルフが、微笑んでいた。

 金の髪は側頭部に編み込まれ、背中から腰へと流れている。

 背丈は俺より少し低く、長い耳には小ぶりのイヤリング。

 胸元には金のブローチを留めた白いリボン。

 金の刺繍が入った濃い青の衣装は、ロングスカートと一体になり、足下まで優雅に伸びていた。

 受付嬢を思わせる佇まいだ。

 挿絵(By みてみん)

「何か、お困りですか?」

 清明な声。

「あっ、あの、えっと、俺はっ」

 喉が、ひどく渇いた。

 あまりの美しさに、俺は何をしに来たのか忘れていた。

「そうだ。冒険者の登録を──」

「あなた……珍しいものを持っていますね」

 彼女の視線が、下へと落ちる。

 俺の腰に下げていた短剣を、じっと見据えていた。

「ああ、これは、エルフの里で──」

 瞬き一つ。

「懐かしい~!」

 白い細手に、短剣があった。

 その腹を撫でるように指先を滑らせながら、彼女は楽しそうに笑っている。

 それは──()()()()だった。

 ……うそだろ。

 腰の重みが、ない。

 抜かれたことに、……気づけなかった。

「手入れも綺麗で、実によろしい。はい、お返しします」

 そういうと、彼女は俺の腰へ──短剣を戻した。

「最近は忙しくて……もう、だいぶ里に帰れてないんですよ。長老たちは、元気でした?」

「え、えぇ」

 何なんだ、この人。

「私はエンバートーチ受付担当、エリンと申します。よろしくお願いします」

 エリンは笑いながら、手を差し出した。

 戸惑いながら、手を握る。

「いいんですか──?」

「えっ?」

「エルフの名前は、心を許した相手にしか教えないって……」

 くすくす、と彼女は笑った。

「古い風習ですよ。いちいち名前を隠してたら、仕事ができないわ」

「そう、なんですね」

「ああ、それと……」

 声の調子が落ちた。

「魔力は、隠しすぎない方がいいですよ」

「えっ」

「逆に、目立ってしまいますから」

「……」

 意味が分からず、俺は目を泳がせた。

 ──なるほど。

 周りを見れば、ほとんどが魔力を垂れ流している。

 たしかに、いきなり“無”が現れたら、それは異質となるのかもしれない。

 だから。

 エリンは、俺に声をかけたのではないか。

「冒険者登録ですよね。さぁどうぞ、奥の方へ」

 彼女はギルドの奥へと、すっと手を向けた。

 その時──

「あぁーーっ!!!!」

 背後から、少女の声。

 振り返ると──

 フィオナが、立っていた。

 水色の長髪が揺れる。

 それを見て、エリンが驚いたように口に手をやった。

「あら!」

 そして。

 フィオナが、

 前へ跳んだ──ッ!

「どぉりゃぁああああ!!!!」

 風切る前進ッ!

 引き絞られた拳が──

「うぉっ!?」

 一直線に、エリンへと撃ち出されたッ!

 思わず目を伏せる。

 

 ──パァンッ!!

 

 衝撃音が、耳の奥で弾けた。

 ……そろりと、目を開く。

 エリンは、

 フィオナの拳を、片手で受け止めていた。

 ただの一歩も、動かずに。

 涼しい顔で金髪をかき上げ──

「んー、七十点。踏み込みが、ちょっと甘いかも」

 顎に手をやると、そう告げた。

 そして微笑む。

「でも……鍛錬は、続けてるみたいね」

「わぁーっ! 久しぶり!!」

 二人は、そのまま抱き合っていた。

 やがてフィオナは体を離すと、

「紹介します!」

 横にいるエリンに向かって、両手を広げる。

「おばあちゃんでーす!」

 ……お祖母ちゃん。

「……おば、あ、ちゃん?」

 目を細めても、エリンは少女にしか見えない。

 仮に少女ではなかったとしても──

 穏やかに微笑むその顔は、どう見ても絶世の美女だ。

 “お祖母ちゃん”という言葉が、まるで似合わない人、いや、エルフだった。

「元気だった?」

「超、超、超元気!」

 フィオナは両腕を上下させ、元気を主張した。

 そして、今度は俺に向き直り、

「で、こっちは緋色! 私の、頼もし~い仲間!」

「山田、緋色です」

「まぁまぁ……」

 エリンは、柔らかく目を細めた。

「フィオナの世話をするのは、大変だったでしょう」

 その瞬間。

 死にかけた日々が、走馬灯のように脳裏を駆け抜けた。

 フィオナを何度も救い、小鬼(ゴブリン)に追いかけ回され、醜悪鬼(トロール)に、岩魔人(ゴーレム)──。

「……いえ……お孫さんには……私も大変、お世話になっておりまして……」

 思うことは沢山あるが、ここは“お世話になっている”ことにしておこう。

 俺は、大人なのだ。

「ふふ──あっ! 忘れてました。ギルド登録ですよね」

「ええ、お願いします」

「では」

 エリンは奥に手を示し、くるりと身を翻した。

「さぁさ、おいでませ。受付は、こちらで~す」

 踊るような足取りで、進んでいく。

 中央のカウンターを過ぎ、大階段も通り過ぎ──

 やがて、ひときわ落ち着いた受付の空間へと辿り着いた。

「改めて、ギルド、残火の灯(エンバートーチ)へようこそ!」

 朗らかな声が、空間に響く。

「新たな冒険者さまを、心より歓迎いたします」

 彼女は手を胸に当て、優雅に一礼した。

「さぁ。ここから、あなたの物語が始まります!」

 芝居がかった口調で、

「神秘の森、古の古城、水の都、砂漠の王宮──めくるめく冒険の旅路が、きっと待っていることでしょう」

「おお……」

「っと。お決まりの口上は、この辺で」

 そう言って、古めかしい用紙を差し出してきた。

 羊皮紙の上部には、炎の紋章。

 その下には──『ギルド登録宣誓書』と、重々しい文字で記されていた。

「こちらに、お二人の詳細をご記入ください」

 名前、人種、性別、職業、出身国──

 身長や体重まで、細かな項目がずらりと並んでいる。

 性別まで書いたところで、手が止まった。

「……待てよ。俺の職業って、何なんだ?」

「短剣をメインに扱うなら、剣士ですね」

「私は、魔法使いかな~」

 フィオナは即答した。

 出身国、“日本”と書きかけて、俺は手を止めた。

 ──“エバーウッドのエルフ里”、だな。

 最後は、チェック項目だった。

 

 □ 本人の意思による任務遂行中の負傷、または死亡について、ギルドは一切の責任を負わないことを、ここに了承する。


 死亡──。

 

 そうだ。

 この世界は、死と、隣り合わせなのだ。

 覚悟を決めるように、俺はチェックを入れた。

 あとは、“任務は自己責任”と“規約違反は禁止”というような内容だった。

 全ての項目を書き終え、エリンに用紙を差し出す。

 彼女はそれに軽く目を通すと、小さな印章を押し当てた。

 朱色の蝋が溶け、

 俺の名の横に、炎の紋章が刻まれていた。

「最後に、これをどうぞ」

 差し出されたのは、銅色のドッグタグだった。

 掌に収まるほどの薄い金属片だ。

 中央には、簡素な文字で“E”と書かれている。

「冒険者の証──『ギルドタグ』になります。大事なものなので、無くさないようにして下さい」

 指でつまみ、光にかざす。

 ほとんど重みがないそれを、首にかけた。ひやりとした感触が、鎖骨に触れる。

「身分証としても使えますし、依頼の確認、ギルドや冒険者への連絡、位置情報、登録済みモンスターの記録図鑑まで見れちゃいます」

「へぇ……」

 思っていたより、ずいぶんとハイテクだ。

「それから、録画と配信機能なんかもあります」

「配信機能?」

「遺跡の探索や戦っている様子などを、映像記録する依頼もあるんです」

「……それは、面白そうですね」

「有名な『配信者』(ストリーマー)になれば、ゴールドもたくさん稼げますよ」

 ふふっとエリンは笑った。

 現代的だ。

 すぐに有名になったら、どうしよう。

「そして、冒険者にはランクというものがあって──」

 エリンは丸まった羊皮紙を取り出した。

 くるくると、それを広げていく。

「このように、七段階に分けられています」

 紙には、整った文字が並んでいた。

 E “初級冒険者”

 D “一般冒険者”

 C “熟練冒険者”

 B “国家戦力級”

 A “特別任務級”

 S “軍事戦略級”

 SS “特級国家戦力”

 と、書かれている。

「最初は見習い、Eランクからのスタートです。Cランク以上になれば、一流冒険者ですね」

 なるほど。

 関門を越えて獣国に行くには、一流になる必要がある、というわけだ。

依頼(クエスト)をたくさんこなして、昇級試験を受ければ昇格となります」

「昇級試験……難しいんですか」

「ん~。合格率は、半分以下ですかねぇ」

 頬に指をやり、エリンは答えた。

「ランクを上げるほど特権が増えていくので、ぜひ頑張って下さい」

「よーし! さくっと、SSになっちゃおう!」

 フィオナは、さくっと、特級国家戦力になろうとしていた。

「無理、しない程度にやろうな……」

 なんか、胃が痛くなってきた。

 エリンは微笑んだ。

「依頼に関しては、パーティを組むことも可能です。ぜひ、仲間を集めてみて下さいね」

 思い浮かぶのは、小柄な猫と豊満な牛──二人の獣人少女。

 仕事の際は、彼女たちを誘ってみよう。

「おっと、そうそう。危険な廃墟、古代の遺跡など──『死の領域(デッドゾーン)』と呼ばれる危険エリアには、自己判断で行かないようにして下さい」

 デッドゾーン。

 響きからしてヤバい。

「デッドゾォンッ!?」

 横には、青い眼を輝かせるエルフ。

「……だめだからな。絶対に」

「えぇ~っ」

 絶対に近づかないぞ。

 絶対に、だ!

「説明は以上になります。何か分からないことがあれば、いつでも聞いて下さいね」

「はい、ありがとうございます」

「最後にこちら」

 エリンが手で示した方には──四角い箱。

 液晶画面が表示されており、“評価・感想お願いします”と書かれている。

「これは?」

「受付担当の評価と、感想を受け付ける機械になります。この私、エリンの対応が良いと感じた場合は、評価とレビューを、ぜひお願いしますっ!」

「紙に、書けばいいんですかね」

「はいっ」

 エリンは俺の手を優しく握り、

「私への愛情を、語っていただいても構いませんよ」

 ふふ、と小悪魔的に笑った。

 顔に熱がのぼる。

「──冗談ですよっ、もう。愛いらしい」

 エリンの顔に、満面の花が咲いた。

 彼女の笑った顔は、フィオナにそっくりだ。

「ふんっ!」

 横からフィオナが、繋いだ手を引きはがした。

「ちょっと! 緋色は、私の仲間なんですけどっ」

「取りませんよ。玩具じゃないんですから。まったく、子供ね」

 フィオナは、むーっと頬を膨らませていた。

「まぁ……まだ幼いですが、一応、そこそこ強い魔法使いがパーティにいるみたいだし、大抵の依頼は何とかなるでしょう。応援していますね」

「私、もう大人なんですけど!」

「百歳もいってないエルフは、みんな子供なの」

 エリンは肩をすくめ、息をついた。

「ここにいるということは、冒険の丘は越えたんですよね」

「うん! 楽勝だった!」

 フィオナはドヤ顔している。

 平気で噓をつくじゃないか、この娘。

「じゃあ……次は、獣国ルプスガンですね」

「交通規制がかかってると聞いたんですが」

「ええ。Cランク以上じゃないと、関門を通れない決まりになっています」

「身内特権とかで、Cランクに出来ないの?」

 フィオナが不満げにいった。

「例外は、ありません」

「ぶーぶー。おばあちゃんのいじわる」

「規則を守らなければ、組織というのは成り立たないの」

 諭すように、エリンは人差し指を揺らす。

「ふと思ったんだけど……他の聖壇から回るのは、ダメなのか」

「順番にやらないと、地脈の魔素がおかしくなる──って長老が怖い顔でいってた」

 フィオナは長老の声真似で言った。ちょっと似ている。

「おばあちゃんは、レベルを上げるいい機会だと思います」

 にこにこと、エリンは笑っている。

「今のまま行けば、生き残れるとは到底思えないもの」

「大丈夫だもん」

 フィオナは口を尖らせる。

 それを見て、エリンの声のトーンは落ちた。

「戦争を舐めてる。……そんなんじゃ、死ぬわよ」

「一人じゃないし、緋色だっているもん!」

「むりむり。山田さんも、そう思うでしょう?」

「緋色は、私の味方だよね!?」

「えーっと……」


 ──二人の痴話喧嘩に、しばらく揉まれた後。

残火の灯(エンバートーチ)は全五階。上の階には飲食店、鍛冶屋などがあります」

「かなり、広いですよね」

「ええ。よろしければ、軽く案内しましょうか」

「お願いします」

 受付の外に出ると──

 照明がちょうど当たっている道の真ん中に、ひときわ目を引く少女がいた。


 ──妖精、だ。

 挿絵(By みてみん)

 長い耳。

 桃色の瞳にツインテール。

 髪の先端は、黄色へと溶けている。二色髪(ツートーン)だ。

 頭の上には小さなハートの王冠に、星の髪留め。

 首元には小ぶりのハートのペンダントを下げ、

 ピンクを基調にした、フリルたっぷりの衣装をまとっている。

 大きな胸元はハート型の装飾で軽く持ち上げられ、肩と腹部は大胆に露出していた。

 太ももにはリボン付きのガーター。

 腰から広がるミニスカートは何層にも重なり、動くたびにきらきらと光が散っている。

 いやらしさではなく、計算された愛らしさがあった。

 そして──

 背中には、光の粒を宿した半透明の翅。

「はいはーい! みんな、息してる!? 妖精アイドル、ピピちゃんでーすっ!」

 空中に浮かぶ半透明の画面に向かって、身振り手振り話している。

「今日は有名ギルド、残火の灯(エンバートーチ)にきてまーす!」

「あれは一体……」

「あれは、配信者(ストリーマー)さんですね。ああして、視聴者から収益を得ているのです」

「なるほど」

 少女は、くいと腰をひねり、色っぽく地面に寝転ぶと──

「高評価、登録してねんっ。んー、ちゅっ」

 片方だけ目を閉じ、投げキッスした。

 誘惑的で、視線を引き寄せる仕草だ。

 ……なるほど、そういう売り方もあるのか。

「ああいうのが人気なんだ~。私も、やってみようかなぁ」

 フィオナがぼそっとつぶやいた。

 世間知らずの、美少女エルフ配信者。

 ──人気、出る気がする。

「……いいかもな」

「では、上の階にいきましょう~!」

 エリンに誘われるように、俺たちは、階段へと足を踏み入れた。

 少しの期待に、胸が膨らんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ